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能登地震 被災地に思い寄せ、贈られた貝殻で工作 女川小・放課後楽校

 女川町女川小(児童210人)で、能登半島地震の被災地・石川県志賀町で取れた貝の殻を使った工作教室があった。同町の上野良助さん(82)が地元の海岸で拾い集めた貝殻を寄贈し、教室の開催が実現した。児童は色鮮やかな殻を通して被災地へ思いをはせ、自由な発想で制作に取り組んだ。(漢人薫平)

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きれいな貝殻を画用紙に貼り、楽しそうに工作する児童

 教室は同校で町教委が開く「おながわ放課後楽校」の一環で開かれた。1~3年生約20人が画用紙に竜や人魚といった架空の動物をはじめ、魚、家族、チョウといった絵を描いた。ピンク色の桜貝や紅貝など、好みの形や大きさの貝殻を選んで接着剤で貼り、美しい作品に仕上げた。

 竜のうろこを貝で表現した鈴木叶望(かなみ)さん(9)は「ピンク色の貝は初めて見た。自分でも拾ってみたい」と話し、「能登の人が早く普通の生活を送れるようになってほしい」と願った。

 上野さんの「子どもに貝を譲りたい」という願いは3月、石巻かほく紙上で紹介され、記事を読んだ町教委の坂本忠厚さん(63)が寄贈を依頼した。上野さんは自身が手がけた貝細工の作品3点と、プラスチックケースや木箱で7箱分の貝殻を贈った。

 工作教室は6月26日にあった。町教委は児童の作品を撮影した写真を上野さんに送る予定。坂本さんは「東日本大震災後に生まれた児童たちに被災地のことを考えるきっかけをつくってもらった。長年かけて集めた貝を寄贈していただき、ありがたい」と感謝した。

上野さん「大人になったら能登に足運んで」

 女川の子どもたちに貝殻を贈った上野良助さんは中学時代から、自宅近くの増穂浦(ますほがうら)海岸で貝殻を拾に集めてきた。「4歳の頃から母親がいなかった影響もあるのかな。浜でよく遊んどった」。30年前ほど前から貝細工の制作に取り組み、作品は約50点に上る。記者が7月1日に志賀町を訪問すると、既に新たな立体作品の制作に励んでいた。

 上野さんは元日の地震発生時も海岸にいた。大きな揺れに思わず転んだ。ポケットラジオから津波への警戒を呼びかける放送が聞こえ、慌てて海沿いの堤防に走った。

 津波は来なかったが、自宅は屋根瓦が落ちるなどの被害を受け、大規模半壊の判定を受けた。敷地内にある納屋も大きく傾き、保存していた作品の多くが被災した。大量の巻き貝を使った立体作品「スカイツリー」は真ん中ほどで折れてしまった。

 貝殻を組み合わせて人や動物を精巧に表現する貝細工は、モチーフを形作るためにちょうどいい大きさの貝を探すことから始まる。上野さんは「自然が相手なのだから、1週間歩き回って1枚も見つからないこともある」と話す。1点を完成させるのに1~3年がかかるという。

 工作教室の様子を伝えたところ「子どもは本当に発想が豊かで、教室のひとときでも貝細工を楽しんでくれたら寄贈してよかったと思う」と上野さん。「これを機に能登に関心を持ってもらい、大人になって足を運んでくれたらうれしい」と目を細めた。

桜貝や紅貝を組み合わせて動物や自然を表現する上野さん

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