避難の大切さ、未来へつなぐ絵本制作 震災でわが子亡くした遺族2人、思い語る 石巻
東日本大震災の伝承活動に取り組む語り部や団体が登壇する「3.11トークセッション」が、石巻市のみやぎ東日本大震災津波伝承館で初めて開かれた。ともに震災でわが子を失い、震災の記憶や命の尊さを絵本に描いた遺族2人が、制作に込めた思いなどを語り合った。
同市の公益社団法人3.11メモリアルネットワークが主催した。同市の日和幼稚園遺族有志の会の佐藤美香さん(49)と、大崎市の一般社団法人「健太いのちの教室」の田村弘美さん(61)が登壇し、来館者約10人が参加した。
佐藤さんは仙台白百合女子大(仙台市)の学生らと協力し、3月に絵本「2人の天使にあったボク」を出版。長女の愛梨ちゃん=当時(6)=を乗せた幼稚園の送迎バスが地震の後に高台の園から低地に向かって出発し、被災した様子などを克明に記した。
佐藤さんは「あの日、園には当たり前の避難行動をしてほしかった。震災を知らない世代が増えていく中で伝え方を考え、小さな子どもに分かることは大人にも分かると思い、絵本の形になった」と説明した。
田村さんは伝承活動で出会ったミュージシャンらと「ふしぎな光のしずく~けんたとの約束~」を約5年がかりで作り上げた。震災当時、七十七銀行女川支店(女川町)に勤めていた長男の健太さん=当時(25)=は、支店長の指示で銀行の屋上に避難し、津波で犠牲になった。
発災から13年を経て絵本を出版したことについて「気持ちの整理がつき始めるまで8年かかった。健太の人生や活動を1冊にまとめるのは発災10年の段階でも難しかった」と振り返った。
2人は、伝承活動を支援する「3.11メモリアルネットワーク基金」を絵本の出版費に充てた。資金面でのハードルにも触れ、田村さんは「費用はかかったが、息子の生きた証しを残したかったし、子を亡くすという最悪な経験を他の親にしてほしくなかった」と強調。佐藤さんも「避難の大切さを少しでも知ってもらい、未来につなげたかった」と語った。
トークセッションは7月21日にあった。今後は年度内に6回、不定期で開く。参加した石巻市大街道北の会社員淀川直哉さん(56)は「伝えることばかりではなく、つながることが震災伝承の基本になっていくと感じた」と話した。
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