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震災遺族、交流の軌跡 御巣鷹の尾根から(下) 連携 「命守りたい」、決意一つ

邦子さん(左)や孝行さん(左から2人目)、弘美さん(同5人目)らが、御巣鷹の尾根で安全な社会実現への決意を新たにした=12日午前11時15分ごろ、群馬県上野村

 「今年も来たよ」。そうつぶやきながら、墓標の前に野球ボールをそっと置いた。「安全な社会を目指して 健ちゃん 健太との約束」と誓いの言葉を記して。

 東日本大震災で長男健太さん=当時(25)=を失った田村孝行さん(63)、弘美さん(61)夫妻は12日、日航ジャンボ機墜落事故の慰霊登山で、事故機に一人で乗っていた美谷島健君=当時(9)=の遺体が見つかった現場に手を合わせた。

 毎年供えるボールは、高校球児だった健太さんが練習に使っていた。日航機が無事に目的地の大阪に着いていれば、野球が好きだった健君は甲子園球場で夏の高校野球を観戦するはずだった。「2人でキャッチボールしてね」。弘美さんは墓標に語りかけた。

■安全の徹底訴え

 健君の母邦子さん(77)との出会いが登山に参加するきっかけになった。邦子さんは事故後、遺族でつくる「8・12連絡会」の事務局長を務め、日航に原因究明や再発防止を求めてきた。田村さん夫妻は、震災時に健太さんが勤めていた七十七銀行に安全の徹底を訴えてきた自分たちと姿を重ねた。

 「遺族として、健ちゃんを思う母として、はっきりと声を上げる姿に勇気をもらった」と弘美さん。登山の道中、歩みを共にした邦子さんは「供えてもらったボールに2人の名前が並んでいて、心が温まった」とほほ笑んだ。

 田村さん夫妻と同様に、御巣鷹山には45人が死傷した「津久井やまゆり園」入所者殺傷事件(2016年)や、58人が死亡、5人が行方不明になった御嶽山噴火(14年)など全国の災害や事件の遺族が足を運ぶ。大切な人の命を理不尽に失った悲しみを持ち寄り、道中や山頂での交流を通じて笑顔を広げる。

■協力 次の一歩へ

 2006年のシンドラーエレベータ社製エレベーター事故で長男大輔(ひろすけ)さん=当時(16)=を失った市川正子さんもその一人。田村さん夫妻と御巣鷹山で出会い、企業や学校の防災意識向上を呼びかけるフォーラムに登壇者として協力する。市川さんは「ここで生まれる連携が、次の一歩への元気になる」と語る。

 「一人一人の命を大切にする社会を願って」。遺族らは12日、一つにした決意を垂れ幕に記し、山頂で掲げた。「同じ思いの人たちが集まり、線になることで社会に影響を発揮できる」と孝行さん。「互いの活動に広がりも生まれた。このつながりは財産だ」。安全な社会を求め、歩みは止めない。

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