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わいどローカル編集局 >和渕(石巻市)

 「わいどローカル編集局」は石巻地方の特定地域のニュースを集中発信します。20回目は「石巻市和渕地区」です。

和渕夏まつり 先祖供養、灯籠8000個

 和渕地区を流れる北上川の河川敷を灯籠で彩る恒例行事「和渕夏まつり」は、1960年代に地元商店会が中心となって始めた。地域には古くからナスやキュウリをわらの灯籠や船に乗せて川に流す盆行事が伝わっていた。風習は途絶えたが、地域の水難犠牲者を追悼しようと祭りが考案された。

 当初は北上川に1200個ほどの灯籠を浮かべて流していた。祭りの実行委員会で事務局長を務める相沢孫克さん(66)は「最初のころは戸板に乗せて川の中心まで泳いで運んだ。だんだんと船上から流すようになった」と回顧する。

2000年ごろの夏まつりでは、北上川に架かる神取橋の下で、船上から灯籠を流していた

 河川敷への「水辺の楽校」設置や、宮城県連続地震を受けて、灯籠は約20年前から陸上に飾るようになった。近年は設置個数が1年に500個ほどのペースで増える。今年は15日に祭りがあり、先祖や東日本大震災の犠牲者供養のため、約8000個が色とりどりの温かい輝きで会場を包み込んだ。

 相沢さんは「来場者は年々増えている。駐車場を増やしても追い付かないほどだ」とうれしい悲鳴を上げる。商店会の規模縮小に伴い、現在は住民有志約30人が1カ月以上前から準備に取り組む。「全ての灯籠に火が付いた時は達成感がある。初めて来た人の驚く様子を見るのがたまらない」

 地区の少子化や携わる住民の高齢化など課題もある。ただ、代々続く先祖供養や、祭りに合わせて帰省する人のためにも継続に意欲を見せる。相沢さんは「古里を感じられる祭りがあれば、地域を離れた若者らが帰ってくる機会になる。記憶に残る強烈なイベントとして続けていきたい」と力を込めた。

約8000個の陸上灯籠が会場を照らした今年の和渕夏まつり

北上川―江合川合流 材木のまちの足跡、今も

地域を流れる北上川(右)と江合川の合流地点

 南北に流れる北上川の西岸に位置する和渕地区は、古くから交易の拠点だったことが伝えられている。河南町史によると、仙台市と岩手県釜石市を結ぶ気仙道の宿場町があったほか、仙台藩下では交通・交易を監視する役所「御役場」が置かれた。

 舟運の歴史との結び付きはさらに強い。江戸時代に北上川の改修工事に尽力した川村孫兵衛は、江合川の主流を北上川への合流に一本化し、舟運に適した流れに変えた。両河川の合流地点に位置するのが和渕地区の中心部だ。

 「この地区は特に材木が多く運び込まれていた」。地域のコミュニティー推進協議会で顧問を務める鈴木悟一郎さん(77)は、そう証言する。岩手県方面から北上川を下って木材が運び込まれ、地区は製材の拠点として栄えた。

 地区には2009年まで約150年続いた木材商の一家がおり、かつて企業城下町を築いていた。北上川に架かる神取橋のふもとに製材所を構えていたという。

 鈴木さんによると、住民の多くはその従業員か、関連する仕事に携わり、生計を立てていた。丸太から何本の柱を作れるか判断する「見立て」や、材木に加工する木の調達係「やまかい」、燃料に使う木の破片の運搬役…。住民の担う仕事は多岐にわたった。

 企業は従業員が事業を引き継ぎ、拠点を仙台市に移した。和渕地区ではくん煙乾燥などを担う工場が今も稼働し、材木のまちの足跡を刻み続けている。鈴木さんは「若者が地域に入ってくるきっかけにもなっている。仕事をする場所としてでも、地域が存続してくれればうれしい」と語った。

農業法人「田伝むし」 無農薬で安心な米、世界に

自宅近くの水田で、農薬を使わずに栽培する木村さん。たわわに実った稲穂が収穫を待つ

 和渕地区の農業生産法人「田伝(でんでん)むし」は、農薬や化学肥料を使わずにササニシキを栽培する。ササニシキの希少性と健康志向の高まりから顧客は年々増え、国内外から注文が入る。「子どもたちに安心して食べさせられるお米を作ろう」。社長の木村純さん(55)の両親が37年前に始めた挑戦が、着実に広がりをみせている。

 食品会社の営業職に就いていた木村さんは2005年に家業を継ぎ、10年に法人化した。11.6ヘクタールの水田で妻千寿子さん(46)と共に生産し、直売する。北海道から沖縄まで全国の顧客から毎月100件以上の注文がある。フランスやスイスにも輸出する。

 薬剤に頼らないため、かかる手間は人一倍。特に除草は重労働だ。6、7月にはぬかるむ水田で重さが30キロ近くある除草機を1日中押し続ける。木村さんは2カ月で体重が5キロ減ると明かし「食べ物を育てる誇りを感じながら体が鍛えられる。こんなにいい職業はない」と笑う。

 宮城県生まれのササニシキは寒さや暑さに弱く希少品種になったが、気候が合う石巻地方は最大の産地だ。あっさりとした味わいはすしに最適。石巻には世界三大漁場で捕れる豊富な魚種があり、ノリや日本酒も特産だ。木村さんは「すしの役者がそろう石巻で、多業種が連携して明るい展望を描きたい」と構想を練る。

 「田伝むし」の社名には、生き物と共存する田んぼや農業の素晴らしさを伝えたいとの願いを込めた。栽培や流通のノウハウを共有することで、志を共にする仲間も増えつつある。

 木村さんは2月、パリでおにぎり専門店に現地の人が列をなす姿を目の当たりにした。コメの国内消費は右肩下がりだが「世界で脚光を浴びる米食文化の素晴らしさに日本人が気付く一助になりたい」と、より良い米作りに精を出す。

生産したお米や大豆を原料に、みそやお菓子も開発、販売する。おこげせんべい(右奥)はヒット商品だ

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 今回は佳景山販売店と連携し、漢人薫平、相沢美紀子の両記者が担当しました。次回は「石巻市広渕」です。

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