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剣道七段、85歳一発合格 県内最年長 石巻・網地島の小野さん、鍛錬実る

 石巻市の離島・網地島長渡地区の元教員小野喜代男さん(85)が8月、全日本剣道連盟主催の剣道七段審査会に初挑戦で合格した。県剣道連盟によると、県内の合格者では最高齢。1人で竹刀を振り、己の剣道を磨き続ける小野さんは「人生で最高の日になった。今でも信じられないくらいうれしい」と語る。

自宅隣にある神社境内で鍛錬を続ける小野さん

 審査会は8月24日、仙台市青葉区の本山製作所青葉アリーナであった。全国各地から743人が参加し、184人が合格した。試合形式の「実技」と「形」で、礼や着装など細部までが審査対象になった。

 最年長でトップバッターの小野さんは、実技で79歳と76歳の2人と立ち会った。思い描いていた力の半分も発揮できず、合格する自信はなかった。形の審査を終えて合格を告げられ、目頭が熱くなったという。

 塩釜市出身の小野さんは元々、塩釜高と福島大で柔道に打ち込んだ。東北高に国語教諭として勤め、柔道部のコーチも担った。

 転機は40歳ごろ。剣道部の顧問が不在となり、同じ武道を教える小野さんが指名された。竹刀を握ったこともなく、部員に「役に立たない」と言われたこともあった。

 「教師が努力しなければ、生徒に努力しろと言っても響かない」。一日でも早く対等に向き合えるようにと、部員たちに毎日打たれ続けた。徐々に信頼関係を築き、多くの実力者を育てた。

 定年退職後に網地島に移住し、83歳まで漁師を続けた。島の生活を楽しみながら自分の剣道と向き合った。全国各地で開かれる六段の審査会に防具を背負って何度も出向いた。不合格が続き、その度に「二度と剣道はしない」と落ち込んだ。15年間挑戦し、合格したのは7回目、76歳の時だった。

 以降も自宅隣の神社境内で毎日約1時間、竹刀や木刀を振り込む。六段合格から9年がたった今年、自分の剣道の質を確かめようと七段審査に挑戦することを決めた。立ち会いの練習をするため、東北高や同市の湯殿山神社の道場に通い、本番に備えた。

 七段に合格し「ここに登らないと見えない景色があった」と言う。剣道と出合ってからは、ずっと教えられる立場だったが「初めて与える立場になったのだと実感した」と話す。

 最高位の八段の昇段試験を受験するには10年以上の「修行期間」が要る。「95歳での挑戦は体力的に厳しい」。昇段試験には今回で区切りを付けるが、剣道の鍛錬は継続する。「やっと剣道の楽しさが分かってきた。自分の剣道を磨きながら、これまで培ってきたものを後進に伝えていきたい」と志を新たにする。

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