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北上川への思い、あふれる 「石巻学」第9号の発刊記念、執筆者らトーク

北上川の魅力について語る橋本さん(右)。聞き手は大島さん
「北上川物語」を特集した「石巻学」第9号の表紙

 「北上川物語」を特集した地域誌「石巻学」第9号(石巻学プロジェクト発行)の完成を記念したトークが9日、石巻市立町2丁目のラ・ストラーダであり、特集に関わった執筆者らが北上川の歴史や風土をそれぞれの視点から発表、北上川の魅力を再発見する場になった。

 トークの先陣を切ったのは、3度も北上川遡行(そこう)の旅を敢行した石巻市出身の写真家橋本照嵩さん=さいたま市=。「川が曲がると文化が違うし、方言も違って面白い」と指摘、宮城・岩手両県を流れる全長約250キロの北上川の魅力を説いた。

 元東京中日スポーツ記者の本庄雅之さん=石巻市、石巻名画座代表=は、北上川流域のヨシ原を原材料に茅葺(かやぶ)きを生業(なりわい)とする石巻市北上町の熊谷産業を紹介、「東日本大震災から再起。開拓精神で特産化に挑んでいる。石巻にある伝統産業を応援したい」と強調した。

 地域ジャーナリストの鈴木孝也さん=石巻市=は北上川改修の犠牲になった、自身の古里・柳津町(現・登米市)の歴史を検証、「北上川改修という国家プロジェクトによって柳津は川底に沈んだ。下流域の人たちは柳津の犠牲の上に今の生活があることを知ってほしい」と願った。

 ほかに盛岡中時代、川蒸気船で北上川を下り石巻で下船した詩人・童話作家の宮沢賢治のエピソードなども披露され、詰めかけた市民は北上川を巡る豊かな物語に興味をかき立てられていた。

 司会進行を務めた石巻学プロジェクト代表の大島幹雄さん=横浜市=は「知っている北上川、知らない北上川の物語があり、意義深い場になった」と締めくくった。

 トークは石巻の魅力を探る場づくりイベント「石巻学プラスワン」の一環として行われた。

「母なる川」、ヨシ原や川蒸気船紹介

 地域誌「石巻学」第9号(石巻学プロジェクト発行)は、石巻地方の人々にとっての母なる川「北上川物語」を特集している。写真家橋本照嵩さんと北上川にまつわる物語がメーン。巻頭を飾るのが北上川の表情や流域の風景を撮影したモノクロ写真。東日本大震災前の貴重な記録でもある。

 石巻学プロジェクト代表の大島幹雄さんを聞き手に橋本さんが語った「北上川遡行の旅」の採録は、橋本さんが写真家として北上川にどんな思いを寄せてきたかが分かる。当時の旅日記も収録している。

 河口に暮らす石巻の人たちへの聞き書きでは、一人一人の北上川物語が紡がれる。ほかにも作家森まゆみさんと十三浜の人たちとの震災を挟んだ交流、ヨシ原とともに生きる熊谷産業、北上川をさかのぼるサクラマスの話など北上川を巡る話題は尽きない。

 北上川改修の犠牲になった旧柳津町の歴史にも光を当てる。北上川を行き来した川蒸気船の話からは往時のにぎわいが伝わってくる。北上川が育んだ水産人列伝も興味深い。

 大島さんは「北上川に寄せるそれぞれの思いをまとめた。北上川の魅力が詰まった1冊になった」とPRする。

 定価1500円(+税)。A5判。184ページ。現代思潮新社(東京)発売。

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