閉じる

震災描く映画2作品、劇場公開へ 大川出身の佐藤さん制作 自主上映会、反響呼ぶ

 石巻市出身の映像作家佐藤そのみさん(28)=東京都=が東日本大震災の体験を基に制作・監督した映画2作が、12月7日から劇場公開される。「震災遺族」として扱われ続ける葛藤と向き合いながら、各地で開催してきた自主上映会が反響を呼び、全国での上映に結実した。

二つの作品がつながり、対になっていることが表現された劇場公開のポスター

 上映作は、震災で妹を亡くした少女たちの心の傷と友情を表現した劇映画「春をかさねて」と、佐藤さんや同年代の遺族に焦点を当てたドキュメンタリー「あなたの瞳に話せたら」。ともに日大映画学科時代に地元の大川地区などで撮影した。

 佐藤さんは、大川小6年だった妹みずほさん=当時(12)=を震災で亡くした。2作の脚本には自身の葛藤や喪失感を刻んだ。石巻市内で関係者や地元住民向けに開いた上映会を皮切りに、2021年から「ある春のための上映会」と題して全国で作品を公開して回った。

 心の傷をさらけ出した作品の公開に抵抗がないわけではなかった。「違う自分もいるのに、被災者としての面だけを見られるようで苦しかった」。上映を重ねる中で「封印しても苦しさが増すだけ。否定しても被災者であることは変わらない」と割り切った。

 鑑賞者からは温かい感想が届いた。地元住民は「震災前の大川を思い出した」「久々に故郷に戻った気分だった」と言ってくれた。震災について互いに話せなかった同級生も見てくれた。作品を通して思いを共有できた気がした。

 「今では好きな作品になった」と佐藤さん。気付けば各地での上映回数は30回を超えた。「想像もしていなかった力が作品にあるのだと感じた。作品の力に委ねてみようと思った」。

 劇場公開に向け、配給主体「半円フィルムズ」を設立。震災後の経験を踏まえ「物事の反対側の立場や意見を考えたい」との思いを名前に込めた。大学を卒業して約2年勤めた配給会社での経験を生かし、自主配給に臨む。

 佐藤さんは「家族を亡くし、10代から20代までに考えてきたことが残っている作品。初めて見る人は新鮮な気持ちで触れてほしい。見たことのある人も、これまでより良い環境で、異なる感じ方をしてもらえたらうれしい」と話した。

 都内のシアター・イメージフォーラム(12月7~27日)からスタートし、名古屋、大阪などで順次公開される。追加された上映館は公式サイトで確認できる。連絡先はhanenfilms@gmail.com

関連リンク

石巻かほく メディア猫の目

「石巻かほく」は三陸河北新報社が石巻地方で発行する日刊紙です。古くから私たちの暮らしに寄り添ってきた猫のように愛らしく、高すぎず低すぎない目線を大切にします。

三陸河北新報社の会社概要や広告などについては、こちらのサイトをご覧ください ≫

ライブカメラ