大須浜の海商を小説に 元県水産センター副所長の阿部さん、飢饉救う史実から着想
江戸時代後期、現在の石巻市雄勝町大須浜を拠点に交易を展開した「海の商人」阿部家の若き当主を主役とする歴史小説「海翔(か)けた龍(りゅう)の記憶」が文芸社から出版された。1833年から数年続いた天保の飢饉(ききん)時、秋田から3000俵の救済米を運び込み、雄勝の浜で餓死者が一人も出なかったという史実に基づく。執筆した東松島市の元県職員阿部圭いちさん(64)は「宮城の海をなりわいの場として生きた人々の歴史を知り、三陸の海の魅力を再認識してほしい」と期待する。
大須浜の阿部家は江戸から蝦夷地に至る東回り航路を商いの場とし、廻船と漁業を営んでいた。22歳の当主、阿部源左衛門寿保(じゅほ)はコメを運び入れて雄勝の漁村の多くの命を救った。「お月様より殿様よりも、大須旦那がありがたい」と浜甚句にうたわれた。
阿部さんは雄勝町史を基本に歴史・文化の資料や大須浜に伝わる伝統・口伝などを集め、時代背景が分かるように書き上げた。寿保の恋愛と仙台藩の謀略も絡ませ、若き海商の活躍と恋の物語に仕上げた。
阿部さんは県職員時代、水産業を担当し、県水産技術総合センター副所長を最後に退職した。「宮城県の伝統的漁具・漁法」の調査・編集・執筆を担当し、浜に伝わる歴史や伝統、文化に魅力を感じていた。
東日本大震災を契機に三陸沿岸で過疎化や高齢化が急速に進み、「浜の記憶」が失われていくことに危機感を抱いた。記憶を拾い集め、未来につないでいくきっかけにしたいと出版を思い立った。
震災時、東松島市の自宅が被災し、母が2階に取り残された。復興業務に追われて自宅に帰れず、衰弱した母を介護できなかったという無念さも小説執筆の原動力となったという。
阿部さんは「石巻地域に面白くて魅力的な人物、歴史があったのだと多くの人に知ってもらい、沿岸地域を訪れるきっかけになれば幸い」と話す。
小説は四六判、536ページ。1600円(税別)。全国の書店、ネット販売のほか、石巻市内では未来屋書店イオンモール石巻店とヤマト屋書店あけぼの店で扱っている。
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