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わいどローカル編集局 >小野(東松島市)

牛網えがおの食堂を運営する遠藤さん(左から3人目)ら住民5人
食堂開催時に集まって交流する地域住民が=牛網えがおの食堂提供(画像を一部加工しています)
閉店した古川屋店内で額に入れた手ぬぐいを持つ大沼さん。ショーケースの上にあるそろばんは会計時に使われていた
古川屋の工場に飾られた泰一郎さん(中)と妻のみゑさん(左)、武志さんの写真

 「わいどローカル編集局」は石巻地方の特定地域のニュースを集中発信します。23回目は「東松島市小野地区」です。

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 古くから続く市街地と東日本大震災後に形成された住宅地が共存する東松島市小野地区。住民たちをつなぐ「食」を切り口に、地区の歴史や新たな交流を紹介する。

新旧住民交流の場に 月1回「牛網えがおの食堂」

 2021年に完成した市小野駅前南集会所で月1回、60~70代の牛網地区住民5人が地域食堂「牛網えがおの食堂」を営んでいる。昨年7月の発足以来、地域に温かな食事と住民交流の機会を届けている。

 地元農家などから譲り受けた食材を使い毎月、カレーライスやそうめんにサラダや煮物を付けたメニューを振る舞う。料金は中学生以上200円、小学生100円。活動は地域に徐々に広まっており、代表の遠藤京子さん(71)は「『次はいつ?』と楽しみにしてくれる人もいる」と話す。

 発起人で地区の民生委員児童委員だった吉田豊さんが今春に急逝し、遠藤さんが代表を引き継いだ。「手伝いのつもりで参加していたので最初は戸惑った。『おいしい』と言われるとやって良かったと感じる」。年4回程度の活動にとどめる予定だったが、予想以上の需要や反響を受け、7月から毎月開催している。

 牛網地区は東日本大震災の被災者が移り住み、住宅街が広がった。遠藤さんも移転者の1人。震災翌年の12年に女川町から移住した当時、住宅は近隣に数軒あるのみだったが、現在は集会所がある牛網駅前2丁目だけで約200世帯ある。移転者で新たに構成された地域で、食堂は住民が互いを知る場所になっている。

 目下の課題は子どもの参加者の少なさ。「貧困層向け」という印象から敬遠されるのか、利用が伸びないという。遠藤さんは「もっと子どもにも来てもらい、地域住民がお互いに助け合える交流関係をつくりたい」と語る。

 次回は30日に芋煮会を開く。子どもの参加を促そうと、輪投げなどのレクリエーションも用意する。午前11時半~午後2時。参加費は中学生以上が100円、小学生以下は無料。食堂は食材提供などの協力を随時受け付けている。連絡先は遠藤さん090(4557)4659。

創業100年の老舗「古川屋菓子店」、惜しまれ閉店

 創業100年を数える小野地区の和菓子店「古川屋菓子店」が10月、店主の急逝に伴い店を閉じた。看板のあげまんじゅうを求めて遠方から足を運ぶ人もいるなど、地域内外から愛された老舗だった。

 店は戦前から営んでいた。2代目の古川泰一郎さんが昨年3月に100歳で亡くなった。経営と菓子作りは長男の武志さんが引き継いでいた。

 あげまんじゅうやゆべし、がんづき、もなか、ようかん。多い時で10種類ほどをそろえた。個人客の他にも地域の自治会や老人会から注文が入り、市外からも客が訪れた。親戚の大沼雄吉さん(77)は「作るそばから売れていた。あげまんじゅうは時間がたってもかりっとした食感が続いた。揚げ方が良かったのかな」と振り返る。

 温厚な人柄だったという泰一郎さんは松島町高城町の店で修行後、父が創業した古川屋菓子店に戻った。太平洋戦争に出征し、帰国後再び工場に立つと、亡くなる直前まで菓子職人を貫いた。

 武志さんは幼い頃から店を手伝っていた。幼稚園バスの運転手の仕事を平行していた時期もあったが、3年ほど前から菓子作りに専念。体調を崩して今年10月に75歳で亡くなった。後継者がいなかったため店を畳むことになった。

 大沼さんは以前は隣に住み、幼少期は武志さんと一緒に菓子作りを手伝っていたという。店の古い手ぬぐいを自宅で見つけ、泰一郎さんの死後、一人で店を切り盛りする武志さんにプレゼントしようと思っていた。「100年続いた店を閉めるのは残念。古川屋の菓子は忘れられない味だ」と惜しんだ。

家族長年の夢、居酒屋「旬菜 縁屋」オープン

 東松島市産の野菜や海産物を使った手料理を味わえる居酒屋「旬菜 縁屋」が9月、牛網地区にオープンした。石巻、東松島両市で約60年スナックを営んできたオーナーの鹿野多恵子さん(75)、店主で長女の高橋理恵さん(43)、その子どもら親子3代で店を切り盛りする。

 人気メニューは卵を6個使った厚焼きの卵焼きで、甘めの味付け。唐揚げや焼きそばなど定番メニューのほか、「きょうのおすすめ」には刺し身や季節の鍋料理などがずらりと並ぶ。

 野菜は東日本大震災前に自宅があった浜市地区で栽培するネギやダイコン、カブ、ホウレンソウなどを使用。開店直前に収穫した生の春菊をサラダで提供することもある。震災の津波で被災した後も、多恵子さんの夫孝彦さん(故人)が野菜を作り続けてきた畑を受け継ぐ。

 居酒屋の開業は、料理好きな多恵子さんと理恵さん、孝彦さんら家族が長年夢見てきた。現在の店舗がテナントとして貸し出されたことを知り開業を決めた。

 「父が作る野菜はおいしかった。おいしい物を食べて育ってきたので、お客さんにもおいしいと言ってもらえたらうれしい」と理恵さん。多恵子さんは「居酒屋が少ない地域。震災があって離れてしまったみんなが集まれる場所にしたい」と店名に込めた思いを語った。

<メモ> 
 営業時間は午後5~11時。水、日曜定休。東松島市牛網駅前1丁目4の10。連絡先は0225(98)8941。

来店客と話す(右から)理恵さんと多恵子さん

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 今回は小野販売店と連携し、西舘国絵、及川智子の両記者が担当しました。次回は「石巻市桃生地区」です。

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