いつか長編を 石巻出身・佐藤そのみさん制作「春をかさねて」、映画館で順次公開
石巻市出身、佐藤そのみさん(28)の映画作家としての新たな1年が始まる。昨年は有望な若手映画作家の一人に選ばれる一方、東日本大震災の体験を基に製作、監督、脚本を務めた映画「春をかさねて」(2019年)と「あなたの瞳に話せたら」(同)が都内の映画館で初めて公開された。今の思いを聞いた。(久野義文)
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-昨年12月7日から3週間、大学時代に作った2本が渋谷のシアター・イメージフォーラムで公開された。映画館での上映は初めてだった。
「映画館には自分から売り込んだ。大好きな映画館だったので、公開が決まった時はうそみたいと感動した。若い観客も目立った。(震災が題材という先入観を持たず)純粋に映画として出合ってほしかったので、映画館での上映はうれしかった」
-全国の映画館でも順次公開される。
「17日からの京都が最初で、ほかに大阪や神戸などでも予定されている。多くの人に見てほしい」
-昨年は文化庁委託の若手映画作家育成プロジェクトに参加する4人のうちの1人に選ばれた。次代を担う若手映画作家の発掘と育成を目的にしている。
「予算とスタッフはつくが自分で脚本と演出をこなし、30分以内の短編を作らなければならなかった。昨年11月に都内でロケを行い、12月は編集に追われた。内容はまだ話せない。年内にはお披露目できるはずだ」
-石巻市出身で「さよなら ほやマン」(23年)の監督・庄司輝秋さん(44)も12年、若手映画作家育成プロジェクトで短編を撮った。
「私は高校生だった。見たいと伝えたら庄司監督からDVDが贈られてきた。12年後、自分が関わるとは思わなかった」
-目標とする監督は。
「台湾のエドワード・ヤン、フランスのクリス・マルケル。社会への温かく鋭い俯瞰(ふかん)的なまなざし、緻密で美しい画面設計。2人ともいつも世界そのものを見ているかのような、深い映画体験を与えてくれる映画作家」
-昨年、母校の石巻高で創立100周年式典があった。後輩たちに伝えたいことは。
「何も無駄にならない。それに今、やれないとしても思い続けることが大切。いつかやれる時が来る。私自身、長編を撮りたいと思い続けている」
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佐藤さんは日大芸術学部映画学科時代、東日本大震災での体験を基に2本の自主映画を制作、監督した。
■劇映画「春をかさねて」(2019年、45分)
震災直後の石巻市大川地区を舞台にしたフィクション。震災で妹を亡くした14歳の少女の内面を見つめた作品。
■ドキュメンタリー映画「あなたの瞳に話せたら」(19年、29分)
児童・教職員84人が犠牲になった大川小にまつわるドキュメンタリー。震災から8年半が過ぎた2019年12月に撮影。友人や家族を亡くした当時の子どもたちが故人に宛てた手紙を織り交ぜながら震災と向き合う。
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