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非日常と出合う「小さな」旅 動物・お酒・アート、記者3人が体験 石巻地方

馬に乗って牧場内を歩く記者。少し高い位置から周囲の風景や他の馬の様子を眺められた
のびのびと暮らすヒツジ。横に長い特徴的な目も間近で観察できた
ビアベースカンパネラでは、東松島市のクラフトビール「GRAND HOPE」から飲み始めた
初対面の客同士で盛り上がったリボーンアートスタンドの店内
さか井で公開されている「room キンカザン」。太平洋と金華山を眺めながら詩人気分を味わえる
記者もスペインタイルの絵付けを体験。2枚を制作し、うち1枚が女川町に寄付され、町内に飾られるプランもある

 旅の魅力は非日常の体験。でも、うんと遠くに行かなくても、未知との出合いはきっとある。記者3人が昨年12月中旬、それぞれ決めた「動物」「お酒」「アート」をテーマに石巻地方で目的地を選び、小さな旅をした。

【動物】東松島市大塚→石巻市桃生町→石巻市門脇町

<触れ合い 信頼が伝わる>

 動物が好きだ。もふもふした毛に触りたい。JR石巻駅から仙石線に飛び乗った。向かったのは東松島市の野蒜駅。そこから約25分歩き、最初の目的地「美馬森 八丸牧場」に着いた。

 予約していたのは40分の乗馬体験。パートナーは22歳(人間なら50代半ば)のイザベルだった。牧場を運営する一般社団法人「美馬森Japan」統括部長の吉田斐(あや)さん(26)が馬との接し方から教えてくれた。

 まずはイザベルの鼻先に手の甲を差し出す。お互いを安心させるあいさつだという。体高約140センチの馬体にまたがる。乗馬は約10年ぶりだが、小さな馬なので怖くない。のどかな風景が広がる約2ヘクタールの牧場内を歩いた。

 パカパカと鳴るひづめの音が心地いい。イザベルの動きが体全体に伝わり、一体化した感覚を少しだけ味わった。乗馬後はブラッシングも体験。首をなで、しっかりとした毛並みと熱い体温を感じた。

 仙石線で石巻駅に戻り、マイカーに乗り換えた。三陸沿岸道を北上し、目指したのは「ものうウール」。石巻市の住民約20人が、飼育する羊の毛で手編みのセーターやマフラーを作っている。

 約1ヘクタールの牧場では、代表の今野美江子さん(75)の夫が12頭の羊を飼う。触れることはできないが、近くで観察した。念願のもふもふだ。今野さんが「生まれた翌年5月に刈り取る『バージンウール』は特に柔らかい」と教えてくれた。いつか毛刈りを体験したい。

 最後は同市門脇町5丁目の「猫Cafeごろにゃん」で癒やされた。保護ネコなど18匹がいる。猫に触るのは久しぶりで、距離感がつかめない。「嫌がられないかな」と恐る恐る触れると、気持ちよさそうに目を閉じた。ネコのほうが余裕があった。

 それぞれの動物からは、共に暮らす人との関係性も見えた。互いの信頼が伝わる旅だった。(渋谷和香)

メモ
▽美馬森 八丸牧場 
 午前10時~正午、午後1~4時。年中無休。乗馬体験は40、60分コースの2種。人気の牧場作業体験は子ども向け、大人向けがある。いずれも要予約。東松島市大塚字三反田22の1。連絡先は090(9636)0325 
▽ものうウール 
 活動日は毎月第2土曜の午前10時~午後4時。希望者は牧場や糸つむぎの見学などが可能で、製品の販売もしている。石巻市桃生町太田字袖沢44。連絡先は今野さん090(8612)2882 
▽猫Cafeごろにゃん 
 午前10時~午後7時(最終入店午後6時)。不定休で、営業日はインスタグラムと公式ホームページで確認できる。石巻市門脇町5丁目11の2。連絡先は0225(90)4389(営業日のみ)

【お酒】JR矢本駅→JR東名駅→JR石巻駅

<飲んで歩いて 一期一会>

 夕方、東松島市でその日の取材を終えた。飲みに行こう。最寄りのJR矢本駅へ歩き、駅前のテイクアウト店「青い町のぷらっとホーム」でおにぎりを買う。アルコールの分解には熱量が要るのだ。

 仙石線で向かったのは東名駅。住宅街に防災無線の「夕焼小焼」が午後5時を伝える。帰宅を促すメロディーに逆らうように、浮き浮きと酒場に繰り出す。

 徒歩3分で「ビアベースカンパネラ」に到着した。店主の大谷直也さん(40)はビールの醸造開始に向け奔走中だ。進展を聞こうと思ったが、店が暗い。…休み? 程なく大谷さんが慌てて現れた。

 「実は今日、醸造許可が下りまして」。事業開始から4年。ついに醸造だ。12種類を醸すビールは市内の行政区から名前を取り、カキや小麦など地区ごとの地場産品を原料に加える。紙面で紹介できる日を楽しみにしながらビールを飲んだ。

 ほろ酔いで電車に30分揺られ石巻駅へ。構内の飲食店「Reborn-Art STAND」に入った。

 石巻おでんをあてに日本酒を味わい、隣席の客と語らう。ウオーキングが趣味の看護師阿部茂さん(50)は自宅がある東松島市赤井から電車で来て、これから歩いて帰るらしい。すごい脚力だ。

 客は徐々に増え、ご機嫌な2人組が入店した。先客となじみらしく、偶然の邂逅(かいこう)に沸く。うち1人は石巻市の酒類販売店「四釜商店」の四釜壮俊社長(56)だった。飲み屋から流れてきた2人は騒がしさをわび、店内の全員に酒をおごりだした。

 いつしか客が一つの輪になった。今日はどこから。お疲れさまです。見知らぬ人同士がねぎらう。「酒を飲んだら仲間です」。そう言い残し去る四釜社長を全員が熱い拍手で見送った。

 やがて店が閉まり、それぞれ帰路に着いた。酒の席って偶然の面白さに出合えるから楽しいのだな。思い出して笑ってしまう夜が増えたことをかみしめて歩いた。(西舘国絵)

メモ
▽青い町のぷらっとホーム 
 午前6時半~午後7時。木曜と土日祝日定休。冬季限定で東松島市大塩産の焼き芋を販売中。軽食購入者へのホット麦茶のサービスもある。同市矢本河戸264の2。連絡先は070(7667)7711
▽ビアベースカンパネラ 
 水-金曜は午後5~10時、土日祝日は正午~午後10時。月、火曜は定休。クラフトビールやかんきつ系サワーなどを提供する。フードの持ち込み可。東松島市野蒜ケ丘3丁目20の2G棟サステナブルコモンズ 
▽Reborn-Art STAND(リボーンアートスタンド) 
 午前11時~午後9時(日曜は午後3時まで)。牡鹿半島産のイシガニでだしを取った石巻おでん、タコスなどを提供する。地酒2種とつまみ1品が楽しめる日本酒飲み比べセット(1000円)がお勧め。石巻市鋳銭場9の1

【アート】石巻市中心街→牡鹿半島→女川町

<地元愛感じ 感性を形に>

 師走のせわしさをいっときでも忘れたい。アートを巡って海岸線をドライブしよう。そんな思いで1日車を走らせた。

 まずは石巻市の中心市街地にある壁画を訪ねた。旧まんがる堂に地元出身のユニットが描いた縦約3.5メートル、横約6.6メートルの大きな絵だ。青が基調の背景に、クジラやシカなど石巻を連想させる生き物たちが輝く。作家の地元愛を感じた。

 現代アートと音楽、食の総合芸術祭「リボーンアート・フェスティバル」の舞台である牡鹿半島へ。芸術祭を象徴する白鹿のオブジェ「White Deer」などが点在し、会期中以外も自由に鑑賞できるのがうれしい。

 白鹿に立ち寄りながら2時間かけ、同市鮎川浜の「島周(しまめぐり)の宿さか井」に着いた。目的は206号室。日本を代表する現代詩の詩人吉増剛造さんが宿泊した部屋が「room キンカザン」として作品になっている。

 窓には吉増さんも眺めた太平洋と金華山が見え、ガラスには鯨を題材にした詩がつづられている。部屋にいるだけで、詩が浮かんできそうな気持ちになった。

 詩人気分を残しながら女川町に足を延ばす。最後はここまでに蓄えた感性を形に残したい。スペインタイル専門店「みなとまちセラミカ工房」でタイルの絵付けを体験した。

 阿部鳴美代表(63)に教わりながら挑戦。太陽や花など約30種類のデザインから魚の絵を選んだ。7.5センチ四方の素焼き板に紙を乗せ、シャープペンシルで絵を写す。色付けは好きな色を選び、うわぐすりをスポイトで垂らしていく。ピンポイントで落とすのが難しく、何度もやり直す。「一筆書きのようにさっとやりましょう」と阿部さん。助言のおかげで何とか成功した。

 タイルは2週間ほどでコースターになる。完成を楽しみに工房を出ると、JR女川駅前商業エリアを彩るイルミネーションが輝いていた。アート旅の締めくくりにぴったりの光景だった。(大谷佳祐)

メモ
▽旧まんがる堂 
 石巻市中央2丁目5の7。壁画は自由に観賞可能
▽島周の宿さか井 
 「room キンカザン」の観覧を希望する際はフロントに申し出る。観覧無料。石巻市鮎川浜万治下1の7。連絡先は0225(45)2515
▽みなとまちセラミカ工房 
 営業時間は年末年始を除き午前9時~午後4時。木曜定休。制作教室は要予約。絵付け体験は1枚(2750円)と2枚のうち1枚を町に寄付するプラン(3850円)から選べる。女川町女川2丁目7の4シーパルピア女川E-21。連絡先は0225(98)7866

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石巻かほく メディア猫の目

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