巳年に輝く 挑戦2025 > 猟師作家 だる 島田暢さん(石巻市渡波)
現状に安住せず、挑戦を続ける人たちがいる。推進力は、新しい発想、豊かな好奇心、強い使命感…。夢の大小は関係ない。高みを目指して突き進む姿は、私たちをわくわくさせてくれる。(7回続き)
<余すことなく命を活用>
「猟師作家だる」を名乗り、石巻市渡波を拠点に同市雄勝町、女川町など石巻地方の各地で活動する島田暢(とおる)さん(42)。
森にくくりわなを仕掛けてシカを捕る。自家消費の分を除き、肉を真空パックやジャーキーなどに加工して販売する。シカの肉は牛肉などより脂肪が少ない。「脂身が苦手な自分に合っている。低温でじっくり焼いて食べるのが好み」と笑う。
皮は外部に処理を依頼し、届いた革を財布などのレザークラフトや犬用の首輪などの製品に加工する。林業にも携わり、自伐材でツリーハウスや家具も作る。「作家」たるゆえんだ。ちなみに「だる」は姓と名の最後の1文字をつなげた。
鹿児島県出身で、名古屋市で建設業に従事。「クレーンを操っていた」。人生を変えたのは東日本大震災。居ても立ってもいられず2カ月後には被災地・石巻にいた。がれきの撤去や他のボランティアの人材管理などをした。
仲間から「地元の桃浦蛤浜を再生させたい」との相談を受けた。蛤浜はシカが頻繁に出没し、畑作物の食害がひどかった。県猟友会の門をたたき、「自衛」のため猟師生活をスタート。そのうち「余すところなく命を大切に使いたい」と革製品作りなども始めた。
環境に着目したビジネスを考える。築60年の民家を放置林の木材で改築し、シェアハウスにする。触発し合いながら芸術家を輩出する石巻版「トキワ荘」のアイデアを発表。2019年に市創業ビジネスグランプリで最優秀賞を受けた。
22年にはジビエ事業で地産地消等優良活動表彰の東北農政局長賞を受賞、昨年8月にジビエ事業の会社を旗揚げした。
「石巻はいろいろな業界のトップランナーが集まる珍しい街」と言う。「人が魅力的なので、自分もその一人となれるよう挑戦を続けて『石巻の面白い人』になりたい」
特に力を入れるのは子どもの食育。「シカ肉を食べ、地球温暖化などの環境に目を向けてほしい。資源の利活用を未来へつなげたい」。石巻から世界へ。自由な発想と行動力で、島田さんの理念は国境と世代を軽々と超えていくはずだ。(渋谷和香)
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