考えよう地域交通 > 第1部・生活の足は今 (1)苦境 バス利用、市民の1%
地方の路線バスや鉄道が存続の危機にある。人口減や過疎化で利用者の減少が止まらない。一方で、それを命綱にする住民が確かにいる。石巻地方の移動手段を巡る動き、官民の取り組みを追い、地域交通の未来を考える。第1部は「生活の足」の現状を見つめた。(地域交通取材班)=6回続き=
半島部からの約36キロを1時間かけて走ったバスの乗客は6人だった。昨年12月25日、午前7時20分発のミヤコーバス鮎川線。石巻市鮎川浜から終点のJR石巻駅前まで停留所44カ所を巡ったが、ほとんどが無人だったため素通りした。
そのバスが、住民の生活を支えている。同市小渕浜で乗り込んだ女性(78)は、市中心部への通院で2週間に1度利用する。車の運転免許はなく、送迎をしてくれていた夫は東日本大震災前に亡くなった。「バスが走ってくれているから病院に行ける」
石巻地方にはミヤコーバス(仙台市)が運行する12の路線バスが走る。路線は石巻市内を中心に張り巡らされ、JR石巻駅前と女川駅前を結ぶ女川線、石巻西高を経由する石巻免許センター線など一部路線が東松島市、女川町を通る。
■1.4億円、市が補助
人口減少や少子化の影響で全国的に減少しているバスの利用者数。石巻地方では震災を機に激減した。ミヤコーバスと市によると、2010年に年間約70万人だった輸送人員は、路線縮小の影響で11年に約40万人に減少。微減傾向が続いたところに新型コロナウイルス禍が襲い、20年は約23万人に落ち込んだ。23年現在も約31万人と回復しきっていない。
全国の他地域と同様、全線が赤字だ。合併前の旧町を含む複数自治体に乗り入れる広域路線は国庫と市の補助で、市内路線は市の単独補助で穴埋めする。市の23年度の負担額は、イオンモール石巻に乗り入れ、連携する蛇田線以外の11路線に対し計1億4067万円に上る。
バス事業者には燃料価格の高騰や運転手不足などものしかかる。ミヤコーバスは近年、運行間隔のパターン化やIC乗車券への対応など乗客の利便性向上を図るほか、ダイヤを効率化し、限られた人員で管内の路線を回す。それでも路線の維持は厳しさを増し、昨年12月、今年3月1日からの運賃引き上げを東北運輸局に申請した。
同社の奥山武信業務部長は「石巻管内の1日当たりの乗車人数は約1000人。市民の1%にも満たないのが現状だ。毎日でなく、たまに乗ってもらえるだけでも(経営の厳しさは)大きく変わる」と協力を求める。
■行政にも危機感
市民の生活の足の確保に向け、行政の危機感もこれまでになく高まっている。石巻市は15年度に市総合交通戦略、22年度に総合交通計画を策定。住民バスの路線再編や地域の実情に合わせた移動手段の導入など、持続可能な交通体系の在り方を模索する。
だが、市には今年、新たな負担増が待ち受ける。9月末以降、ミヤコーバスの広域路線の多くで国庫補助の打ち切りが見込まれる。輸送量が1日当たり15人以上という補助要件に届かないためだ。
実際は既に下回っていたが、震災の特例で交付が認められていた。ミヤコーバスによると、最も利用者が少ない河北線の輸送量は1日当たり3人前後。要件クリアへの壁は高い。
市は打ち切り後も廃線や減便はせず、市の補助額を増やして現状の運行を維持する方針だ。市地域振興課の佐々木学課長は「『地方の切り捨てではないか』との思いはある」と吐露した上で、「誰一人取り残さない社会の実現に公共交通は欠かせない。路線バスをなくすわけにはいかない」と語った。
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