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「新しい広場」をつくる 石巻・シアターキネマティカ、夏にオープン3周年

 2022年8月のオープンから今年、3周年を迎える石巻市中央1丁目の複合エンターテインメント(エンタメ)施設「シアターキネマティカ」が、市民の「新しい広場」になりつつある。演劇や映画などの文化を発信すると同時に、東日本大震災後の街中の地域交流の場として役割が高まっている。

シアターキネマティカのオープン3周年に向けて張り切る矢口さん(右)と阿部さん

 キネマティカを運営する石巻劇場芸術協会の矢口龍太さん(41)と阿部拓郎さん(37)は、東日本大震災の津波で多大な被害を受けた街の新たなコミュニティーの場としてキネマティカの可能性を探る。

 矢口さんは「オープンから2年半近くなるが、これまでは貸し館的な要素が強かった。これからはキネマティカ独自の企画を打ち出し、人がこれまで以上に集まり、さまざまな世代、職業の人が出会う場をつくりたい」と強調する。

 阿部さんは「人と人がつながる。独自のネットワークが広がる。そんな空間を目指したい。港町が培った文化を継承しながら、ここから新たな文化を生み出していきたい。街の活気につなげたい」と張り切る。

 具体的には、キネマティカの活動の柱である演劇と映画を挙げる。

 演劇を担当する矢口さんはワークショップに力を入れたいという。「毎月開催したい。演劇はコミュニケーションづくりに役立つ。地域の子どもから高齢者までが参加できるような演劇ワークショップを開き、最後は一つの芝居を創りあげる。生きがいや励みにもなるのではないか」と願う。

 映画を受け持つ阿部さんはユニークな上映会による集客を考える。「子ども向けはもちろん震災を題材にした映画や、石巻ゆかりの人を描いた映画、例えば彫刻家の高橋英吉、人権派弁護士と言われた布施辰治の映画とか、ここならではの上映会をやりたい。私自身が見たい映画をかける『拓郎セレクション上映会』もいいかも。映画を通して老若男女が気軽に集い、語り合う場にしたい」と意欲を示す。

 3周年を迎えるキネマティカを、文化活動による新たな地域共同体スペースにしようと2人の試行錯誤は続く。

<8日から唐十郎映画>

 シアターキネマティカが2025年最初に届ける映画は、1967年に東京・新宿の花園神社での紅テント公演で演劇界に革命的な衝撃を与えた劇作家唐十郎を追ったドキュメンタリー「シアトリカル」(2007年)。上映は8~17日(月、火、木曜の定休日除く)。

 「シアトリカル」は映画監督大島渚の次男、新の第1回監督作品。タイトルの意味は「劇的に」。唐と彼の下に集まった若者たちが劇的に演じ、語り、怒鳴る、笑う姿をカメラが捉える。

 入場料は一般1500円、シニア1100円、高校生以下500円。連絡先はkinema@r-ishinomaki.net

【映画】「シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録」上映会 - シアターキネマティカ

本でシアターキネマティカ紹介

 美木麻穂著「人が集まる、文化が集まる! まちの個性派映画館」(パイインターナショナル)がシアターキネマティカを紹介している。

 外観の写真とともに「(東日本大震災)被災者のコミュニティースペース」「人と人をつなぎ、誰にでも開かれた芸術の空間」と、キネマティカの意義・役割を指摘している。2000円(税別)。

シアターキネマティカを紹介した「まちの個性派映画館」

シアターキネマティカへの思い語る

■石巻市・俳優 大橋奈央さん

 出身地である石巻市を拠点に活動する俳優大橋奈央さん(30)。昨年11、12月にシアターキネマティカを会場に開催された第6回いしのまき演劇祭に参加。演劇ユニット「コマイぬ」による朗読劇「トガハラミ」に出演した。俳優から見たキネマティカの魅力、これからの在り方などを語ってもらった。(久野義文)

<面白い場所、市民交流の場に>

 2年前はここで、コマイぬ代表の芝原弘さんと朗読劇「野菊の墓」を上演した。昨年は赤澤ムックさん演出による「トガハラミ」。
ホーム感いっぱい
 石巻の俳優としてキネマティカにすごくホーム感を感じるようになってきた。客席が近いのでお客さんの反応がダイレクトに伝わってきて、やりがいがある。

 でもここに新しいエンタメ施設ができたことを知らない市民はまだいると思う。もっともっと多くの人がキネマティカに足を運んでほしい。一番強いのは「口コミ」。人から人へ「面白い場所があるよ」と。

 そのためにも、行ってみようというきっかけを、どうつくっていくか。幸いここはカフェが併設されている。市民が気軽にお茶飲みができる場所がある。イベントの告知チラシやポスターが目に付くようにすれば興味を示す人が出てくる。今はネットで情報を発信する時代だが、地域性を考えれば高齢者にとって紙媒体が一番の情報源で、やはり親切だと思う。

 キネマティカの前の通りが「文化通り」と言われたように、この辺は本当に雰囲気がある。見覚えがあるような、なじみがあるような、街が華やいでいた頃の遠い記憶とリンクする。

 周辺には東日本大震災後にできたアートギャラリーやいしのまき元気いちばがある。ちょっと足を延ばせば石ノ森萬画館もある。文化の薫りがする散歩ルートの拠点としてキネマティカがある。老若男女が集える市民の新たな交流の場に育ってほしい。
「楽屋」を演じたい
 私は俳優としていつかここで「楽屋」をやってみたい。4人の女性の話で、仙台の同世代の俳優さんたちとじっくり演じてみたい。キネマティカの舞台に立つことが俳優の目標になる。キネマティカがそんな存在になることを夢見ている。

第6回いしのまき演劇祭で朗読劇「トガハラミ」に出演した大橋さん(左)=2024年11月

■石巻出身・俳優 小林四十さん 

 石巻市出身の俳優小林四十(よんじゅう)さん(49)=東京都=は昨年2月、シアターキネマティカの舞台に立った。「またここでやりたい」と意欲を新たにした。キネマティカへの思いを語った。

<石巻の下北沢に>

 東日本大震災の被災地にできたこの劇場に立つには、表現者として「それなりの哲学が必要」という感覚がある。平たく言うと「覚悟」のようなものだろうか。

 ここでやるなら震災をテーマにした芝居をやりたい。ただし圧倒的に「笑える」作品、コメディー。号泣するのと大笑いするのは真逆のようで本質は同じだと思う。ウラをオモテに変える作品を上演したい。

 東京の下北沢という演劇の街には人生をもうひと工夫して、もっと楽しみたいという欲張りな連中がウロウロしている。3周年を迎えるキネマティカにはそんな人たちが集まる空間になってほしい。

石巻劇場芸術協会が企画した演劇プログラム「FISH BOOK(フィッシュブック)」に登場した小林さん(中央)=2024年2月

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