考えよう地域交通 > 第1部・生活の足は今 (2)乖離 通勤と路線網、合わず
昨年12月27日午前8時20分、JR石巻駅で仙石線を降りたスーツ姿の人々が、駅正面の石巻市役所へと向かう。
市が職員にバスや電車での通勤を促す「公共交通利用促進デー」。本年度は毎月第4金曜に実施する。乗客が減少する交通機関の維持のため、市職員が率先して利用しようと2022年度に始めた。昨年度は任意の金曜に参加を呼びかけたが、1度でも公共交通に切り替えた職員は73人(14.1%)しかいなかった。
■街の構造、郊外型
浮かび上がったのは、現状の交通体系と市民のライフスタイルとの乖離(かいり)だ。
市が24年2、3月に実施した職員アンケートで、参加できなかった理由は「退勤時(出勤時)に間に合う便がない」が最も多かった。「職場や自宅付近に運行されていない」が続き、通勤途中に子どもを保育所や学校へ送迎するため利用しづらいという声も目立った。
市職員の通勤手段は公共交通が1割にとどまり、自家用車が7割に上る。市内の事業所の勤務者も8割近くがマイカーを使う。
市は推進デーの取り組みを民間にも広げたい考えだが、多くの事業所は公共交通での通勤が難しい範囲に立地する。就業人口分布に対する500メートル圏の公共交通のカバー率は、路線バスで48.8%、鉄道で6.8%にとどまる。車からの転換は容易ではない。
市全体の22年度の自動車保有台数は10万5730台。市民4人につき3台を所有する計算だ。1世帯が複数台を持つ車社会について、ミヤコーバス(仙台市)の担当者は「街の構造自体が郊外型になった。郊外には車で行くため、バスの運営に悪影響が出ている」と指摘する。
■商店街、回遊せず
交通体系とのずれは通勤だけではない。市総合交通計画は石巻駅を公共交通網の中核拠点に位置付けるが、その周辺に広がる商店街の人通りは少ない。
郊外に客足を取られ、中心商店街が閑散とするのは地方都市の全国的な傾向だ。同市は東日本大震災が追い打ちとなり、商業施設だけでなく、住宅も三陸沿岸道周辺などへの移転が進んだ。中心商店街はますます厳しい状況にある。
「石巻駅には人がいるが、商店街には回遊してこない」。同市立町1丁目で精肉店「佐藤ミート」を営む佐藤和典さん(50)は、店の前のバス通りに目をやった。「近くの停留所にも乗客は並ぶが、商店街には寄らない。街と交通網がもう少しつながっていれば…」
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