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考えよう地域交通 > 第1部・生活の足は今 (3)周縁 通院や進学、バスが左右

住民バスを降り、雄勝診療所へと入る女性=2024年12月11日午前8時50分ごろ
北上地区住民バスを降り、JR鹿又駅で石巻線に乗り換える高校生=2024年12月11日午前7時20分ごろ

 石巻市雄勝町大須の市道で、近くに住む女性(82)がつえを突いて待つ。やって来たのはデマンド型住民バスのワゴン車。この日は月に1度の通院日だ。長年、車で送迎してくれていた夫(86)は2年前から介護施設で暮らす。「バスがないと本当に困る」

 半島部の雄勝、北上地区には鉄道や路線バスがない。骨格から離れた交通網の周縁では、小さな車両の住民バスが高齢者らの生活を支える。

 女性が乗ったバスは県道を20分走り、10キロ先の市雄勝診療所に着いた。看護師が血圧を測りながら帰りのバスの時刻を尋ね、「間に合うようにしますね」と声をかけた。診療所は地区で唯一の医療機関。地区内を走る3路線のデマンドバスが乗り入れ、患者の2割弱が利用する。

■住民の利用、大事

 女性は銀行ATMがある道の駅「硯上の里おがつ」や、郵便局が入る雄勝総合支所にもバスで向かう。区間運賃は1回200円。昨年11月には4往復利用した。「路線を守るために、住民が利用することが大事」と力を込める。

 高校生にとっては、住民バスが進路を左右する。

 昨年12月11日、午前6時18分。同市北上地区の住民バスが十三浜の小滝集落を出発した。途中の停留所で計5人の高校生を乗せ、7時22分にJR鹿又駅に到着。生徒たちは石巻線に乗り換え、それぞれの学校へと急いだ。

 北上・河北地区では2021年度まで保護者が資金を出し合い「通学支援バス」を運行。貸し切りバスを手配し、石巻、東松島両市の高校を巡回していた。生徒数の減少で1人当たりの負担額が大きくなり、22年4月、住民バスの活用に切り替えた。バスの運行協議会は通学に対応し、朝と夜に1便ずつ増やし、ルートを鹿又駅まで延伸した。

 石巻好文館高1年の村上紗彩さん(15)は、住民バスと石巻線、仙石線を乗り継いで通学する。徒歩と合わせて片道2時間弱。「家族に送迎の負担をかけたくなくて、公共交通で通える高校を選んだ」と語る。

■部活、家族が送迎

 帰りのバスは、鹿又駅発が午後5時40分と8時5分。弓道部の練習後では時間が合わず、車で通勤する父親に駅で拾ってもらう。部活は土曜もあるが、住民バスの運行は平日のみ。家族の送迎が不可欠なのが現状だ。

 「朝だけでも自分で通い続けたい」と村上さん。若者の学びを、住民バスと家族の協力が支えている。

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