考えよう地域交通 > 第1部・生活の足は今 (5)補完 利便性と持続性、追求
鉄路や路線バスがない交通の空白地では、地域独自のサービスが住民の移動を補完する。石巻地方でも乗り合いタクシーなどが広がり、バスの停留所が遠く感じる高齢者の欠かせない足になった。運営を担う地元の運行協議会は、地域の状況や住民ニーズに合わせて方式を変え、利便性や持続可能性の確保を図る。
■地域独自サービス、高齢者ら重宝
石巻市桃生地区の住宅に、1台の乗用車が駆け付けた。住民の主婦志田常代さん(77)は眼科や歯科への通院に、運行日はほぼ毎回使う。「高齢者でも家に閉じこもらず、気軽に外出できる」
同地区では路線バス廃止に伴い住民バスが走っていたが、利用が低迷。2023年度に2路線を廃止し、ワンコインタクシーの運行を始めた。月、水、金曜日の週3日で、地区内の乗り降りは一律500円。自宅など指定した場所から目的地まで直行できるとあり、地元の高齢者らが重宝する。
志田さんは友人と乗り合わせて地区内のすし店などで食事も楽しむ。「命は短いんだから、いろんなところに行かなくちゃ」と笑う。
24年度の延べ利用者(11月末時点)は前年同期比で約200人増えた。運行協議会の事務局は「この1年で順調に広まっている。バスと比べると割高だが、使い勝手の良さに好評をもらっている」と言う。現在は週5回運行への増便を目指して検討を進める。
地域に定着したサービスでも、運行エリアの過疎化が進めば変化を迫られる。
■運行「みんなで守る」、形態見直し
昨年で20周年を迎えた石巻市稲井地区の乗り合いタクシー「いない号」。各世帯が運行経費を負担する方式が当初は珍しく、県内外から視察が相次いだ。ただ、近年は沿線の農村地域で高齢化と人口減が加速し、利用者数が落ち込む。
23年度は5896人と初年度(05年度)の33.5%にとどまり、1人も乗らない便もあった。地区内全19行政区の区長で組織する運行協議会は23年11月、運行形態の見直しに着手。利用の少ない下り最終便を廃止し、土曜も減便した。9人乗りだった車両を6人乗りに小型化するなど、コスト削減へ試行錯誤も重ねる。
協議会の高橋誠志会長(74)は「地域の足は地域みんなで守るという、発足時の理念が地域に浸透している」と語る。
利用は地域住民に限定しているが、路線上にはJR石巻駅から石巻赤十字病院など住民以外の利用も見込める区間がある。「運賃収入を増やすには住民以外への解放も一案ではないか。市の補助金に甘えてばかりもいられない」と高橋会長。地域の足の継続に模索を続ける。
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