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子育てと介護の縁側・今日も泣き笑い(29) 浦島太郎の世界 時空を旅して50年前に

レツさん(左奥)とのやりとりで疲弊するせんじい(中央)。2人の孫の存在に癒やされています
夜中にクローゼットを指さして「ほら、そこに人がいっぱい歩いてる」と説明するレツさん

【石巻市・柴田礼華】

 デイサービスから帰ってきた義母レツさん(87)が「おじいちゃん、おばあちゃんは今日どうして過ごしたの?」と尋ねてきました。

 はて、レツさんが言うおじいちゃん、おばあちゃんって誰のことでしょう? どうやらかつて同居しており、30年以上前に亡くなった私の夫の祖父良蔵さんと、祖母ミツさん、つまりレツさんにとっての義理の両親のようです。

■同じ質問、何度も

 送り届けてくれたデイサービスのスタッフの人にも「門脇町2丁目に送って」と頼んでいたそうです。石巻市門脇町2丁目は、東日本大震災当時に住んでいた門脇町3丁目に家を建てるさらに前、昭和の時代に住んでいた場所です。さらに「お隣のMさんはどうしてる?」と聞かれました。Mさんはその古いお家のお隣さんで、柴田家にお風呂がなかったころ、よくMさんのお家にお風呂を借りに行くなど、家族ぐるみでのお付き合いをしていたことを昔話として私も聞かされていました。今日のレツさんは50年前を生きているようです。

 「レツさん、良蔵さんもミツさんも30年前に亡くなったよ。良蔵さんは生きてたら125歳。あま音と同じ亥(い)年生まれで、120歳違いなんだよ」と説明すると、「そりゃ生きてるのは難しいなぁ」と笑うのですが、また3分も経つと「おじいさん、おばあさんは?」「お隣のMさんは?」と同じ質問が始まります。

■記憶はリセット

 たまたま夕飯の支度が済んで、少し心にゆとりのあった私は、もし自分が逆の立場だったら…と想像してみました。慣れ親しんだ家とは違うところに連れて来られ、今朝まで一緒にいたはずの家族もいないと言われ、さらに目もほとんど見えない。どんなに心細く不安な気持ちになるでしょう。まさに浦島太郎。正直このやりとりは面倒くさいけれど、付き合うしかないかと思いました。

 そばでは幼稚園から帰ってきた長女あま音と風邪で保育園を休んだ次女しお音がにぎやかに過ごしています。レツさんに「あまちゃんとしおちゃんのことは分かる?」と尋ねると「分かるよ。うちの孫たちでしょ」との返答がありました。「まあ、タイムスリップしたような変な気分かもしれないけど、今あまちゃんとしおちゃんがいて楽しく過ごせているから、大丈夫なんじゃないですか」と声をかけると「それもそうねぇ」と安心した様子のレツさん。

 翌朝、すっきりとした顔でいつも通りのレツさんと、ぐったり精気がない義父せんじいが朝の食卓に現れました。昨夜12時ごろ、眠っていたレツさんが突然ベッドから起き上がり「眠くないから寝ない」と言ってせんじいを起こしたそう。何回も夜中だから寝ようと説得しても「寝ない」と言いはるレツさんに、思わずせんじいは怒鳴ってしまったそうです。レツさんはそんな出来事を全て忘れ、記憶もすっかりリセットされた様子。

 時空を旅するタイムトラベラーレツさんにみんなで翻弄(ほんろう)されております。

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