考えよう地域交通 > 第2部・復興まちづくりと交通 (2)新しい駅 市街地の変化に対応

東日本大震災を受け、石巻市内の交通体形は大きく様変わりした。震災後、JR仙石線に唯一新設された石巻あゆみ野駅(※)はその象徴と言える。
■結節点、位置づけ
午前8時過ぎ、下り列車がホームに止まる。通勤通学の時間帯だけに止まる快速列車だ。続々と降りてきた乗客が、近くの県石巻合同庁舎や石巻西高に向かって歩き出した。
駅の北西約1キロにある同校は、全生徒472人の35%が通学に利用する。以前は陸前赤井、蛇田両駅のほぼ中間に位置し、鉄道の利便性は低かった。同校の担当者は「電車を使う生徒は確実に増えた」と駅新設の効果を実感する。
あゆみ野駅は、沿岸部の被災者が移転する新市街地の形成に合わせて市が設置を要望した。あゆみ野地区の災害公営住宅に住む無職女性(59)は「家から駅までゆっくり歩いても6、7分。近くて楽だ」と喜ぶ。
市は2015年度、震災後の人口分布や市街地の変化に応じた交通体系を目指し、総合交通戦略を策定。あゆみ野駅を公共交通の結節点に位置付け、駅前にはバスロータリーを整備した。
現在は石巻地方を走るミヤコーバス(仙台市)の12路線のうち、4路線が乗り入れる。多い時間帯は10分間隔でバスが停留。市中心部や河北地区と結び、仙台方面との中継点として機能する。市地域振興課の佐々木学課長は「運行間隔のバランスがよく、利便性が高い場所になった」と誇る。
駅立地の波及効果もあり、あゆみ野地区と隣接する東松島市赤井柳の目地区では、新たな市街地形成も進む。23年には自動車販売会社3社が進出。今後も大型商業施設や民間による80戸分の宅地整備が計画されている。渥美巌市長は「既にある駅を生かして本市の人口を増やす」と意気込む。
■課題、自宅から駅
課題として残るのは、自宅から駅までの「ラストワンマイル」の交通の不便さの解消だ。2月末現在、石巻市のあゆみ野、のぞみ野両地区には約5200人が暮らす。そのうち65歳以上が約3割を占める。災害公営住宅は独居高齢者の割合も高い。
「駅まで200メートルでも歩くのがつらい高齢者は多い。ただ、タクシーを毎回使うのは経済的負担が大きい」。ある市議が住民の不便さを代弁する。
ラストワンマイルは、他の駅やバス停にも共通する課題だ。市議は、路線バス縮小の代わりにタクシー券を配布する施策や、福祉、商業施設の送迎バスを利用した市独自の移動手段確立など、交通ネットワークの大胆な再構築を求め「交通網を劇的に変える意志が市には必要だ」と訴える。
(※)石巻あゆみ野駅:石巻市が事業費約4億8200万円の全額を負担して整備した請願駅。被災者約5500人が移転する蛇田地区の新市街地形成を見込み、市がJR東日本に設置を要望。16年3月に開業した。駅が位置する仙石線陸前赤井-蛇田間では、東松島市の市民有志らでつくる「仮称柳ノ目駅設置促進期成同盟会」が長年、駅の新設を求めていた。
◇
<ご意見お寄せください 三陸河北新報>
連載への意見、感想、情報をお寄せ下さい。QRコードからの投稿も可能です。
ファクス 0225(21)1668
メールアドレス chikikotu@sanrikukahoku.jp
関連リンク
- ・考えよう地域交通 > 第2部・復興まちづくりと交通 (1)鉄路高台へ 高低差、利便性に明暗(2025年3月8日)
- ・企業版ふるさと納税 仙台・深松組、石巻市に500万円 創業100周年事業の一環
- ・100年先も 鎮魂の竹灯籠、希望ともす 石巻専修大生ら200基
- ・かつて あのまちは (2)東松島・野蒜 海岸と築港、観光創出 松川清子さん
- ・みちのくの砂金、探して 石巻市博物館で体験会 きょうも