「逃げる」 津波避難を疑似体験 三陸河北新報社記者ルポ
観光客や外国人ら地区外の人が海沿いで大きな揺れを感じたら、どうするか。普段防災情報を報じている新聞記者が実際に津波避難を体験してみよう。
大雪や大雨だったら落ち着いて避難できるだろうか?
幼い子連れだったら?
お年寄りと散歩していたら?
想像を膨らませながら、避難を疑似体験してほしい。
石巻・中瀬 避難場所まで20分

<川から離れ羽黒山公園へ>
石ノ森萬画館があり、土日には多くの観光客が訪れる石巻市中瀬地区。市の津波ハザードマップによると、北上川河口の第一波到達時間は51分だ。
地区南側の公園から行動開始。ひとまず中央地区につながる西中瀬橋を渡って川から離れなければ。橋の先を見渡すと、いくつか緑色の津波避難場所の図記号が見えた。集客スポットのいしのまき元気いちばをかすめ、初めに見つけた復興住宅へ向かう。
橋を渡り切ると、復興住宅が想像以上に川との距離が近いことに気付いた。「もっと高い場所はないか」。ビルの奥に山が見えた。あの山に登ればより安全ではないだろうか。
国道398号(立町大通り)を西に進む。途中、山が見えなくなって不安になるが、リスクは確実に下がっていると信じて、急ぐ。山は左手にあるはずだ。その都度交差点をのぞき込む。ようやく長く急な階段を見つけた。階段入り口には緑の図記号があった。
息を切らしながら階段を登り切る。足腰を鍛えていないことを後悔した。羽黒山公園にたどり着く。中瀬地区を出発してから約20分。出発した中瀬公園を見下ろして初めて、やっと一息つけた。(渋谷和香)

石巻・長浜海岸 避難場所まで20分弱

<案内図頼りタワー目指す>
石巻市の石巻漁港と渡波の間に2キロほど続く長浜海岸。ハザードマップによると、第一波が49分で到達し、その7分後に最大波に達する。
午前10時半、浜の東側から避難をスタート。海を背にして陸を向くと防潮堤が視界を遮る。高さは海面から7メートル。越えるための階段のある場所は数カ所に限られる。
防潮堤の上に立った。見回すが、津波避難所を示す緑色の図記号は見当たらない。道路に下りると、今度は松原が広がり、内陸方面の様子が分からない。取りあえず海から離れたい。海岸線と平行した道路が続く東方向ではなく、西に向かった。
案内図を見つけた。目安の距離や所要時間の記載はないが、大宮町津波避難タワーに向かえばいいようだ。交通量の多い国道398号の松原交差点。まだタワーは見えない。歩道の狭い国道を避け、脇道を少し行くと、建物の間から緑のマークが見えた。ゆっくり歩いて20分弱、タワーに着いた。タワー屋上に大きな旗でも揚がっていれば、遠くからでも認識しやすいかなと感じた。
例年渡波海水浴場が開設される長浜の西側にも行ってみた。開設は昨夏に続き今年も見送られるが、浜から魚町三丁目津波避難タワーの上部が見える。安心感は全く違った。(藤本貴裕)

東松島・野蒜海岸 避難場所まで20分強

<更地が広がる海沿い歩く>
東松島市の野蒜海岸。全長約3キロの防潮堤の上に立った。内陸側を向く。周囲に高い場所や建物はない。遠くにJR野蒜駅が見えた。避難するならあの高台か。今ここで警報のサイレンが鳴っていたらと想像し、背筋が冷たくなった。
高台に向かって歩き出す。100メートルほど進むと電柱に避難所の案内図があった。「野蒜市民センターまで1・65キロ」。一般的な速度なら歩いて25分ほど。いつもより長い距離に感じる。
東名運河を越え、10分ほどで市震災復興伝承館に着いた。旧野蒜駅舎を改装した2階建て。一見すると身を守る高さがありそうだが、外壁の1階天井近くに震災の津波到達ラインがあった。これでは安全を確保できない。
市民センターまでは残り1キロ。点在する住宅と公園の間を縫うように進む。高台の下に階段があった。上った先は津波避難場所の「野蒜駅南側交通広場」。スタートから20分強。ようやく安心できた。
野蒜海水浴場は休止しているが、砂浜はビーチスポーツ施設として活用されている。自然歩道「みちのく潮風トレイル」のコースでもあり、近くにはグランピング施設も整備中だ。
海岸近くにはかつて4階建ての「かんぽの宿松島」があった。震災後、市は被災した建物を民間活用して避難場所にもしようと模索したが、実現しなかった。
「あの建物が残せていたら」。高台から更地が広がる海沿いを望み、改めて思った。(保科暁史)


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