東日本大震災14年、展望と課題 石巻地方3市町長に聞く
東日本大震災の発生から14年がたった。石巻市の斎藤正美市長、東松島市の渥美巌市長、女川町の須田善明町長に、現状の課題やまちづくりの展望を聞いた。
斎藤正美石巻市長

<震災遺構を適切に保全>
-震災から14年となる。
「復興財源を活用したハード事業は2022年度で完結した。全国、全世界の支援と協力に心から感謝している。ただ、被災者の心のケアや地域コミュニティー再生など、ソフト事業は道半ば。今後も市民に寄り添った対応を進める」
-コミュニティー再生に向けた課題は。
「沿岸部や半島部を中心に、地域コミュニティーの形成に取り組んできた。被災地域はもちろん、新たに整備した集団移転地区などで今後も取り組む必要がある。住民自治組織の活動を通し、コミュニティーの活性化を図る『ずっと住みたい地域づくり支援事業』などの助成も行っている」
-震災遺構大川小で、壁の一部がはがれ落ちたことが確認されている。遺構の保存に対する考えは。
「経年劣化対策は大きな課題だ。震災の事実と教訓、復旧・復興への思いを後世に伝えるため、大川小、門脇小の遺構二つを適切に保全していく。関係する皆さんと連携して取り組む」
-新年度、庁内に「危機管理部」を新設する。
「自然災害の激甚化や東北電力女川原発に対する不安などへの対応が急務になっている。危機管理に特化した部署として、事前防災から災害対応、伝承までを一つのつながりと捉え、自助、共助、公助の取り組みを一体的に進めていく。災害が起きても『石巻は大丈夫だ』と言ってもらえるような強いまちを目指す」
-最重要課題とする人口減少対策への思いは。
「人口減少を抑制し、稼ぐ力の強化・創出と将来世代の育成を推進することが重要。出会いから結婚、妊娠、出産、子育てまで切れ目なく支援し、移住定住の推進も図る。全ての市民が住むことに誇りを持てるまちづくりに取り組む」
(聞き手は及川智子)
渥美巌東松島市長

<災害公営、払い下げ模索>
-震災後続けてきた追悼式典を今年も実施する。
「式典には三つの役割がある。犠牲者に哀悼をささげ、震災を後世に語り継ぎ、復興がまだ終わっていないと政府に発信することだ。今後も継続して開催していく」
-かねてソフト面の復興を懸案に挙げてきた。
「土地のかさ上げや集団移転などのハード事業が完了した一方、被災者が高齢化し、独居世帯が増加した。人が集えるような場所づくりや日常の交流促進など、どう寄り添っていくかが課題だ。行政が全部を担うのではない、新たな支援の構築が求められる」
-市は災害公営住宅の払い下げを検討している。
「賃貸ではなく持ち家に住むという感覚が被災者の自立につながる。対象471世帯のうち約50世帯が払い下げを希望している。譲渡事例はまだないが、住民の要望に基づき進める」
-2024年度を市の「観光元年」に定め、昨秋には道の駅「東松島」が開業した。
「現在は東京や大阪中心のインバウンド(訪日客)が今後、温暖化に伴い(冷涼な)東北にシフトすると予想している。隣の松島町や塩釜市など広域で連携した観光誘致策を考えたい」
「道の駅開業に伴い、交流人口拡大に加えて、農漁業者や製造業振興による所得向上を目指している。地場産野菜を生かした飲食メニューの開発も進める」
-人口減少は喫緊の課題。どう対応していくのか。
「赤井地区の柳の目南工区で民間業者による住宅地整備が進んでおり、市も人口流出を食い止めるダム機能に期待している」
「これだけ人口減少が進めば、いずれ『平成の大合併』に続く市町村合併が起きる可能性がある。それを見据えると、市の体力を付けることは不可欠。市民が誇りを持てる市にしていく」
(聞き手は西舘国絵)
須田善明女川町長

<新たな養殖、サバに活路>
-震災から14年を迎える。町の防災態勢強化に向けた取り組みは。
「14年は長いように感じるが、阪神大震災から30年が過ぎたのを考えると、最近のようにも思える」
「防災強化に関しては今後、移動式のトイレカーや給水車の配備を予定している。町民だけでなく近隣地域も支援できるよう装備を整えていく」
-東北電力が昨年12月、女川原発2号機の営業運転を再開した。被災地の原発では初の再稼働だった。
「住民を不安にさせないよう、東北電には情報公開の徹底を求めている。使用済み核燃料の乾式貯蔵施設整備を巡り、町が新たに核燃料税を導入するのは、燃料の早期搬出を促すのが目的だ。女川が最終処分場ではないことを今後も強調していく」
-震災復興に向けた新事業として新年度から、漁協などと連携してマサバ海面養殖の実証実験を始める。
「近年の海水温上昇で、ホタテの『へい死』や銀ザケの出荷減少など水産業への影響が深刻だ。先進地の福井や長崎を視察し、サバが新たな養殖種として有望と感じた。漁業者が確実性を持って取り組めるよう情報提供できればいい」
-本土と出島を結ぶ出島大橋が開通してまもなく3カ月。今後の展望は。
「島民や島出身者の生活が大きく変わり、観光という新たな地域振興の要素が生まれた。防犯面などを含めた観光客のマナー向上という課題もある。島の地域おこし協力隊と協力し、これまでの島の良さを守っていきたいと考えている」
-2026年に町制施行100周年を控える。
「今夏ごろからさまざまなイベントを展開していく。行政だけで実行するのではなく、住民と一緒に事業を考え、町民全員で盛り上がれるようにしたい」
(聞き手は大谷佳祐)
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