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三陸河北新報社、3市町住民アンケート 震災を思い出す頻度「週1以上」3割切る

 三陸河北新報社は、東日本大震災で甚大な被害を受けた石巻地方3市町の住民を対象に、記憶の風化や心身の変化、教訓伝承の現状などを調べるアンケートを実施した。震災の事を思い出す頻度で「週1回以上」を選んだ割合は27.4%となり、初めて3割を切った。震災について考えることが「減っている」と回答した人も前年から1割増え、全体の半数に迫った。

 アンケートは2月後半、記者の聞き取りや配布回収、インターネットで実施。石巻地方の計379人から回答を得た。

 震災を思い出す頻度の設問では「ほぼ毎日」が10.1%(前年比6.3ポイント減)、「週1回程度」が17.3%(3.0ポイント減)で、合計は27.4%だった。調査を始めた2023年の32.8%、24年の36.9%を下回った。「月1回程度」(45.3%、6.4ポイント増)を加えた「月1回以上」では7割を超え、前年と同水準だった。

 震災について考えることが「減っている」は45.2%で、前年から10.2ポイント増えた。「減っていない」(47.4%、9.9ポイント減)は下回った。時間の経過や追悼行事の縮小に加え、前年の結果に大きく反映した能登半島地震の影響低下もあったとみられる。

 震災を思い出す機会の減少について、東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授(災害伝承学)は「十三回忌を終えたことや、追悼行事が縮小された影響があるかもしれない」と指摘。「減っていくのは自然なことではある。その上で、(記憶の伝承には)月1回までの頻度を維持していくことが大事だ」と語った。

 教訓伝承の現状への評価では、好意的な回答が7割を占めた。石巻地方で遺構や伝承施設が整備され、語り部活動などが盛んなことが反映したとみられる。学校教育の効果を理由に挙げる声も目立った。

 能登半島地震に震災の教訓が生かされているかを聞いた設問では、否定的な意見が肯定的な意見を上回り、前年と評価が逆転した。発生から時間が経過するにつれ、能登の被災地で道路や水道の復旧、仮設住宅整備の遅れなどが目立った影響と推測される。

 自由記述では、被災地の現状について「復興事業が完了し、地域の産業に活気がなくなっている」(矢本・60代)、「復興が遅れて住民が減った影響が、年月がたつにつれて大きくなっている」(北上・40代)といった意見があった。

 教訓伝承に関しては「子どもは話をすると怖がる。自分もトラウマがあるが、しっかり伝えないといけない」(桃生・30代)、「目の前で車が流された本人さえ忘れてきている。学校教育に組み込んで教えるべきだ」(石巻・70代)との声もあった。

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【石巻地方3市町住民アンケート】

[1]1年前と比べて震災について考えることが減っていますか

<「減っていない」5割切る、女川は7割超に>

 「減っていない」は47.4%で前年より9.9ポイント減少し、5割を切った。10.2ポイント増加の45.2%だった「減っている」をわずかに上回ったものの、能登半島地震の影響で震災当時を思い出した人が多かった昨年からの反動が見られた。

 被災状況別では「家族・親族が犠牲になった」を選択した人は「減っていない」が56.7%で、選択しなかった人に比べて8.9ポイント高かった。「自宅が被災した」を選んだ人も5.9ポイント、「津波を見た」を選んだ人も3.7ポイントそれぞれ上回った。

 居住地別では「減っていない」は女川が73.1%で最も高かった。北上(60.0%)、牡鹿(57.1%)も5割を超えた。

 年代別では「減っている」が60代(53.2%)、70代(50.6%)で半数以上を占めた。最も低かったのは10~20代の28.6%で、30代が36.1%で続いた。

 被災地以外の人が震災を忘れてきているかを聞いた設問では「忘れてきている」が42.2%で、前年より9.1ポイント増えた。

[2]どれくらいの頻度で家族や友人と震災のことを話しますか

<「ほとんど話さない」41.9%、頻度は低下傾向>

 「ほぼ毎日」「週1回程度」「月1回程度」の合計が55.7%で、月1回以上話すと答えた割合が半数を超えた。一方で、ほぼ毎日は前年より3.0ポイント、週1回程度は2.6ポイントそれぞれ減少。「ほとんど話さない」は4.3ポイント増加の41.9%で4割を超えており、震災を話題にする頻度は低下している。

 年代別では、週1回以上話すと答えた割合が10~20代はゼロ。30代が計2.8%、40代が計6.6%と1割を下回り、若い世代ほど低い傾向が見られた。

 震災のことを思い出す頻度を聞いた設問では「ほぼ毎日」(10.1%)、「週1回程度」(17.3%)、「月1回程度」(45.3%)の合計が72.7%で、月1回以上思い出す人は3年続けて7割を超えた。一方で、「ほとんど思い出さない」は19.5%で前年より7.5ポイント増えた。

 年代別では、週1回以上思い出すと答えた割合は80代が40.0%、70代は37.1%だった。最も低かったのは30代の11.1%で、10~20代が14.3%で続いた。

[3]震災の影響で心や体が苦しくなることはありますか

<心身に影響40.2%、矢本と雄勝が割合高く>

 「ある」「時々ある」は計40.2%で、前年に比べて3.8ポイント減少。「あまりない」「ない」は計57.4%で5.6ポイント増加した。

 被災状況別では、「ある」「時々ある」の合計は「家族・親族が犠牲になった」を選んだ人が52.5%で、選ばなかった人を14.1ポイント上回った。「自宅が被災した」を選択した人は45.3%で、選択しなかった人より11.7ポイント高かった。家族や自宅を失った人ほど心身に苦しさを抱えたままである傾向を裏付けた。

 居住地別では、「ある」「時々ある」の合計は矢本が48.6%、雄勝が47.7%と高かった。女川は「ある」がゼロだった一方、「時々ある」が61.5%を占めた。桃生は「ない」が52.4%で5割を唯一超えた。

 年代別では「ある」「時々ある」の合計は80代が60.0%で最も高く、50代が47.0%で続いた。

[4]あなたの地域の復興はうまくいったと思いますか

<「思う」2割を切る、鳴瀬は3割超え>

 「思う」と「どちらかと言えば思う」は計66.0%で、前年より7.3ポイント低下した。「思う」単独では19.8%で、前年より8.7ポイント低かった。

 住居地別で「思う」の割合が最も高かったのは鳴瀬の34.9%。「どちらかと言えば思う」との合計は矢本の85.7%が最高で、女川が80.8%で続いた。河南(76.4%)、鳴瀬(73.9%)も7割を超えた。

 牡鹿は「どちらかと言えば思わない」が42.9%、「思わない」が9.5%で合計が唯一5割を超えた。

 年代別では全年代で「どちらかと言えば思う」の割合が最も高かった。回答を選んだ理由の記述欄では「震災前と変わらない生活を送れている」(石巻・60代)、「ハード面の復興では本当に必要な事業だったか疑問が残る部分もある」(石巻・10~20代)といった声があった。

 今後の被災地に必要な支援を聞く設問(複数回答)では「コミュニティーの構築」(23.3%)が最多。次いで「防災施設のインフラ整備」が23.0%だった。

[5]震災の教訓はしっかりと伝承されていると思いますか

<好意的意見が全体の7割、遺構や教育活動を評価>

 今年から設問に加えた教訓伝承については「されている」が20.3%、「どちらかと言えばされている」が50.9%で、全体の7割が現状を好意的に受け止めた。

 地区別では牡鹿が計80.9%で最も高く、矢本が77.2%、河南が76.3%、女川が73.1%で続いた。最も低かったのは河北の55.9%で、雄勝は57.1%だった。

 選択した理由を聞いた記述欄では、好意的な意見では「大川小や門脇小などで伝承活動が行われている」(石巻・50代)、「地震があるとみんな避難するようになった」(雄勝・70代)といった声があった。学校教育や報道の効果を挙げる意見も多かった。

 否定的な意見では「教訓を語り合う機会が少ない」(牡鹿・60代)、「震災後に生まれた世代も増え、伝承について考え直す必要がある」(石巻・10~20代)などの意見があった。

[6]能登半島地震で、震災の教訓は生かされていると思いますか

<「生かされず」増加、インフラ整備の遅れ影響か>

 「生かされている」(12.0%)、「どちらかと言えば生かされている」(30.9%)が計42.9%で、「どちらかと言えば生かされていない」(23.7%)、「生かされていない」(20.3%)の計44.0%を下回り、前年とは評価が逆転した。

 教訓が生かされていないと思う部分(複数回答)では「インフラ復旧」が18.4%で最も多く、前年より5.9ポイント増えた。続く「仮設住宅の整備」も16.2%で7.3ポイント増加。「避難所運営」は14.0%で2.7ポイント減少した。

 教訓が生かされた部分(同)では「災害発生時の避難」(23.1%)、「避難所運営」(21.3%)、「ボランティアの受け入れ」(15.0%)の順に多かった。

 前年の調査を実施した昨年2月以降、道路や水道管の復旧、仮設住宅整備の遅れが目立つようになった影響があったとみられる。昨年9月の記録的な豪雨で再び被害が出たことも復興の遅れを感じる要因になっている可能性がある。

[7]どれくらいの頻度で震災のことを思い出しますか

(1)ほぼ毎日           10.1%
(2)週1回程度          17.3%
(3)月1回程度          45.3%
(4)ほとんど思い出さない     19.5%
(5)思い出したくない        7.7%

[8]被災地以外の人は震災のことを忘れてきていると思いますか

(1)忘れてきている        42.2%
(2)どちらとも言えない      31.1%
(3)忘れてはいない        20.3%
(4)分からない           6.3%

[9]今後も被災地に必要な支援は何だと思いますか(複数回答)

(1)被災者の生活再建       21.3%
(2)被災企業の支援        16.1%
(3)防災施設のインフラ整備    23.0%
(4)コミュニティーの構築     23.3%
(5)心のケア           16.3%
(6)分からない           4.2%

[10]災害のための食料備蓄や防災用品の準備はしていますか

(1)している           59.5%
(2)していない          19.8%
(3)これから準備しようと思っている 9.3%
(4)震災当初はしていたがやめた   9.0%
(5)分からない           2.4%

[11]災害が起きた場合の避難場所を決めていますか

(1)決めている          75.6%
(2)決めていない         20.4%
(3)これから決めようと思っている  2.9%
(4)分からない           1.1%

[12]今後、自宅が津波や地震、水害といった災害の被害に遭う不安がありますか

(1)ある             71.0%
(2)ない             19.5%
(3)分からない           9.5%

[13]能登半島地震で、震災の教訓はどの部分に生かされていると思いますか(複数回答)

(1)事前の防災、減災       13.3%
(2)災害発生時の避難行動     23.1%
(3)避難所運営          21.3%
(4)インフラ復旧          8.1%
(5)仮設住宅の整備        13.5%
(6)集団移転などの住宅再建     4.3%
(7)ボランティアの受け入れ    15.0%
(8)その他             1.4%

[14]能登半島地震で、震災の教訓はどの部分に生かされていないと思いますか(複数回答)

(1)事前の防災、減災       12.3%
(2)災害発生時の避難行動     13.0%
(3)避難所運営          14.0%
(4)インフラ復旧         18.4%
(5)仮設住宅の整備        16.2%
(6)集団移転などの住宅再建    10.8%
(7)ボランティアの受け入れ    11.8%
(8)その他             3.4%

※調査の方法:2月14~26日、三陸河北新報社の記者が石巻市、東松島市、女川町の公共施設や事業所などで面談形式や用紙の配布回収で調査したのに加え、インターネットでも回答を募った。計379人から回答を得た。回答者の被災状況(複数回答)は「自宅が被災した」が61.7%、「仕事や学業に影響があった」が40.9%、「家族・親族が犠牲になった」が31.7%、「津波を見た」が29.8%だった。

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 調査結果の評価を東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授に聞いた。(保科暁史)

■石巻地方の「知恵」、発信を

 震災について思い出したり話したりする頻度は前年に比べて減少した。時間経過とともに頻度が下がっていくのは自然なこと。毎日、毎週でなくてもいいので月1回はキープしたい。月命日という機会もある。

 震災を考える頻度の設問では「減っていない」の回答が若い世代ほど多い傾向だった。学校教育の効果もあるし、今になって震災が興味、関心の対象になっている可能性はある。石巻市のみやぎ東日本大震災津波伝承館のボランティア解説員になる学生も増えている。

 備蓄をしている割合が減少傾向にある。以前そろえたものが賞味期限を迎えた影響も考えられる。「ローリングストック」(回転備蓄)も取り入れてほしい。避難場所を決めている割合は75%。他地域に比べれば高いのかもしれないが、100%を目指したい。

 能登半島地震に震災の教訓が生かされているかの評価は、否定的な意見が上回って前年と逆転した。災害は発生当初は共通性が高いが、時間経過とともに地域性に起因して多様化する。

 能登の復興は今後本格化する部分もある。今こそ石巻地方の「復興の知恵」をまとめて発信したい。能登の被災地と地域ごとに「ペアリング」し、寄り添うことがあってもいい。

【佐藤翔輔(さとう・しょうすけ)准教授】 
 1982年新潟県生まれ。京都大大学院情報学研究科博士課程後期修了。日本学術振興会特別研究員(DC2、京都大防災研究所付)、東北大大学院工学研究科付属災害制御研究センター助教を経て、2017年11月から現職。専門は災害伝承学、災害情報学。

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