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考えよう地域交通 > 第2部・復興まちづくりと交通 (4・完)高台の足 市民バス、空白埋める

高台の住宅団地を走る石巻市牡鹿地区の市民バス。各団地を細かく回り、通院する住民らが利用している=10日午前8時50分ごろ、同市の小網倉団地

 14人乗りのワゴン車が高台に造成された住宅地への坂を上る。石巻市牡鹿地区の市民バスは、路線バスが乗り入れしない高台の移転団地内などを回り、交通の空白を埋める。

 同市の離半島部は東日本大震災後、津波で被災した住宅が高台へ集団移転した。牡鹿地区はミヤコーバス(仙台市)の路線バス「鮎川線」があるが、走るのは幹線道路の県道石巻鮎川線のみ。市民バスは16ある移転団地の多くを経由し、平日は1日4路線、計21便を運行。市立牡鹿病院に通う住民らが利用する。

■通学ダイヤ増設

 「バスがないとやっぱり大変」。寄磯浜団地の無職渡辺一子さん(84)は2カ月に1回、約15キロ離れた小渕浜の美容室を市民バスで訪れる。車の運転免許はなく、亡くなった夫が牡鹿病院に入院した際もバスで通った。「美容室に行くのが楽しみ。1人で乗れるうちは利用したい」と話す。

 市は昨春、保護者からの要望に応え、高校生が市中心部への通学に利用できる早朝の便を新設した。大原浜でJR石巻駅前行きのミヤコーバスに接続する。長男が利用している同市寄磯浜の漁業鈴木恵美さん(52)は「下宿やアパートを借りるだけでなく、自宅から通う選択肢ができた」と喜ぶ。

 ただ、高台の団地内などを細かく回る分、時間はかかる。運行距離が最も長い寄磯-鮎川間の所要時間は約1時間20分。車で直接移動する場合の3倍近い。移動は家族の送迎に頼る人も少なくない。

 高台移転により、住宅地と路線バスが走る県道には高低差が生まれた。

 市は、バス停までの移動手段に低速の電動カート「グリーンスローモビリティ」の活用を検討した。2020年度に内閣府の認定を受けた「自治体SDGsモデル事業」の一環で、リユース部品を使った電動カートの製造にも乗り出し、22年度までに計15台の導入を計画した。だが、部品の入手に難航。蛇田地区の新市街地で2台導入したが、半島部ではドライバーを担う住民の確保なども難しく、実現しなかった。

 バス停までのアクセスについて、市地域振興課の佐々木学課長は「バスはこれまでも改編を重ねてきた。ルートやダイヤの見直し、デマンド化といった対応でカバーしたい」と説明する。

■必要性、今後増す

 人口減少が激しい半島部では、地域が運行主体となる住民バスの維持も厳しさを増す。同市北上地区は本年度、運行経費に充てる協力金500円を住民に任意で募った。震災前は各世帯から徴収していたが、住民の多くが被災したため休止していた。

 にっこり団地に住む北上地区行政委員会の千葉宏一会長(78)は「運賃収入だけでは維持できず、行政の補助で成り立っている」と苦しい運営状況を語り「団地は高齢者が多い。バスの必要性は今後さらに増していく」と危惧した。

 復興で新たに形作られた街の生活の足を守るため、行政や地域の模索が続く。

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 第2部は相沢美紀子、西舘国絵、大谷佳祐、及川智子が担当しました。

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