及川里美さん(福島・浪江町職員) 「あの日」古里にいなかった(2)
東日本大震災で自分だけ被災しなかった後ろめたさや、地元の友人らと思いを共有できない孤独感。震災時、就職や進学で故郷を離れていた若者たちの中には、複雑な気持ちを抱えた人たちがいた。震災の影響の大きさを伝えたいと、直接被災しなかった30代の「非当事者」を、世代や境遇が近い記者3人が取材した。
福島県浪江町役場前に咲き誇るベニフサザクラを、町のゆるキャラ「うけどん」がうれしそうに眺める。
町職員の及川里美さん(31)が4月中旬、ぬいぐるみとスマートフォンを手に、交流サイト(SNS)向けの撮影に励んでいた。
「花が自慢の町なんです」「うけどんは名産品がモチーフのお米の妖精。かわいいでしょ」。言葉の端々に浪江への愛着がにじむ。
2019年4月に役場に入り、広報としてSNSや動画投稿サイトなどで町の情報を発信している。
東日本大震災で、一度は古里から目を背けた。仙台市宮城野区のアパートで被災。数日後、テレビで東京電力福島第1原発の建屋が爆発する映像を見た。「浪江には二度と帰れないかもしれない」。終わったと思った。
仙台の専門学校を卒業したら、浪江で就職するつもりだった。生まれ育った津島地区は帰還困難区域に指定され、両親も福島市に。夢は原発事故で絶たれた。
「古里に帰りたい。何とかならないのか」。諦めきれずに調べれば調べるほど、目に見えない放射線の恐怖や原発事故に対する無力感が募った。
「汚染されて終わった町」「ゴーストタウン」。心ない書き込みが追い打ちをかけた。目にするたび腹が立ち、悲しかった。地元の友達とも「つらいことを思い出させてしまう」と、震災の話はしなかった。
思いを共有できず、古里に何もできないやるせなさや孤独感にさいなまれた。「いっそ忘れれば楽になるだろうか」。次第に町の情報を避けるようになった。
夫の古里の岩手県陸前高田市に16年6月に移り住んだ。同世代の若者たちが津波で甚大な被害を受けた地元を盛り上げるために奮闘していた。「もう一度自分も古里に向き合ってみよう」。背中を押された気がした。
18年8月、情報発信サイト「なみえまる」のライターとして原発事故後初めて浪江町に戻った。「多様な活動やイベントで活気づき、町民は『マイナスからのスタートなんだから』と前を向いていた」。想像と現実とのギャップに驚いた。
何度か通ううち、町民から「町の情報を外部に伝える手段が少ない」と相談を受けるようになった。「自分にもできることがある」。町で働くことを決めた。
「震災の時に町を悪く言われて悔しかった。こんなにいい町なんだって伝え続け、みんなにうらやましいと思われたい」。浪江の未来をしっかり見据える。
(報道部・佐藤駿伍)
<編集後記>
宮城県大崎市の高校に通っていた私は、東日本大震災から数日後に同県石巻市渡波に住む友人を訪ねた。津波で1階部分がなくなった住宅やがれきの山を見て、かける言葉が見つからなかった。こんな状況で役に立てることはないのではないかと引け目を感じた。
及川さんは陸前高田市や浪江町の人たちと交流する中で、前向きな言葉に背中を押されたという。挑戦する大切さを改めて教えられた気がした。
震災報道を担う地元紙記者として、被災地の今を伝え続けることは不可欠だ。ひるむことなく、自分のできる取材を模索したい。
「震災報道若手PT」が取材
東日本大震災後に入社した記者による「震災報道若手記者プロジェクトチーム(PT)」は今回、震災当時故郷を離れていた被災地の出身者をテーマにしました。10~20代は進学や就職で県外に転出している場合も多く、PTにも当時東北にいなかった記者がいます。直接被災しなかった「非当事者」の思いを伝えることも震災報道の一つではないだろうか。そんな思いで取材を進めました。
オンラインでは震災遺構を語り部の言葉とともに写真や映像で記録し、発信する取り組みも始めました。第1弾として仙台市若林区の旧荒浜小を公開しています。
今回の特集は報道部佐藤駿伍(27)、関根梢(32)、氏家清志(36)、石巻総局松村真一郎(30)、写真映像部藤井かをり(29)、整理部茂木直人(29)、八木高寛(34)が担当しました。
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みやぎ地域安全情報
宮城県警 みやぎセキュリティメールより
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