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筑波大主幹研究員・松井豊さんに聞く 「あの日」古里にいなかった(4完)

 東日本大震災時、学業や仕事のため地元を離れていて、東北で暮らす家族や友人に言いようのない後ろめたさや引け目を抱える若者もいる。葛藤を乗り越え一歩踏み出すためには何が必要なのか。惨事ストレスに詳しい筑波大働く人への心理支援開発研究センター主幹研究員の松井豊さん(68)に聞いた。
(聞き手は報道部・関根梢)

[松井豊(まつい・ゆたか)さん]東京都立大大学院人文科学研究科修了。聖心女子大助教授、筑波大人間系助教授を経て2005年9月に同大教授、19年4月に同大名誉教授。同年8月から現職。68歳。埼玉県出身。

自分の体験語れる場が重要

 -「後ろめたさ」の正体は。

 「『サバイバーズギルト』(生き残りの罪悪感)に類似している。家族や友人など近しい関係の人が凄惨(せいさん)な体験をしていた時、自分だけが安全な所にいてつらい体験を共有していないことに罪悪感を覚える」

 「震災では身近な人が自分より悲惨な体験をしていると、自分は愚痴をこぼしてはいけないとか、ケアを受けてはいけないと考える傾向が見られた。被災地の住民や現地で活動した消防隊員らにも共通する」

 -被災地で直接的な被害を受けた人との違いは。

 「自分の気持ちをカミングアウトする機会が少なく、自分だけがこんな気持ちを持っていると思いがちだ。ストレスの緩和には他者と話をして経験を共有することが必要。被災地では『お茶っこ』をはじめとして、個人の体験を共有する試みが多くなされていた」

 「罪悪感の中には、犠牲者や被災者に謝りたいという気持ちも含まれる。実際は亡くなった人に謝罪をすることはできないし、友人らに直接謝罪をすることもためらわれる。思いを消化できない、中ぶらりんの状態が続いたことも、自責感や孤独感を強めた一因と言えるだろう」

 -居住地の友人らとの交流ではストレスは緩和されないのか。

 「境遇の異なる友人たちから同情の言葉をかけられることはあっても、体験を共有することは難しい。相手が良かれと思って言った言葉に心が乱されることもある。被災地の惨状と、今自分がいる環境の落差も心情の吐露を妨げる可能性がある」

 -断片的な現地の情報や、被災地に向けられる心無い言葉に傷ついた人もいた。

 「肯定的な情報だけを受け取ることができれば気持ちは和らぐが、受け取る時点で情報の善しあしを判別するのは難しい。例えば役場が出す情報は見るとか、事実関係を淡々と伝えるような報道に限って情報を得るとか、自分で線を引くことが必要な場合もある」

 -自責感や孤独感から抜け出すためにはどうしたらいいのか。

 「被災地でのボランティアに参加するなど、自分が復興の役に立っていると実感することが有効だ。自責感は主に被災地でつらい思いをした人たちに対して感じているもの。その人たちの役に立つことで自責感や引け目が緩和される。共通項の多い地元の人と交流することで、孤独感や疎外感も少なくなる」

 「自責感や孤独感を癒やすには、自分の体験を語れる場を持つことも重要。交流サイト(SNS)を通じたつながりでもいい。共感してくれる人に話をして体験を共有することで、引け目や申し訳なさを低減することができる」

「震災報道若手PT」が取材

 東日本大震災後に入社した記者による「震災報道若手記者プロジェクトチーム(PT)」は今回、震災当時故郷を離れていた被災地の出身者をテーマにしました。10~20代は進学や就職で県外に転出している場合も多く、PTにも当時東北にいなかった記者がいます。直接被災しなかった「非当事者」の思いを伝えることも震災報道の一つではないだろうか。そんな思いで取材を進めました。

 オンラインでは震災遺構を語り部の言葉とともに写真や映像で記録し、発信する取り組みも始めました。第1弾として仙台市若林区の旧荒浜小を公開しています。QRコードでアクセスできます。

はがれた天井、折れ曲がった手すり… 津波の脅威物語る 仙台・震災遺構「荒浜小」

 今回の特集は報道部佐藤駿伍(27)、関根梢(32)、氏家清志(36)、石巻総局松村真一郎(30)、写真映像部藤井かをり(29)、整理部茂木直人(29)、八木高寛(34)が担当しました。

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